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「百瀬さん」
「何だ?」
百瀬さんは正面を向いたままぶっきらぼうに応えた。私はその横顔に向かって口を開く。
「私、短期の派遣ですけど、頑張りますから」
百瀬さんがゆっくりとこちらを向いた。吊り上がった眼鏡に赤や黄色のライトが反射している。
「……ああ。そうしてくれ」
七色のレンズの奥で、吊り上がった瞳が優しく細められた。
(もう、所詮の短期じゃいられない)
横断歩道がピヨピヨと新しい音を鳴らしている。駅はすぐそこだ。
(もう……後には戻れない)
先に歩き出した百瀬さんを追って、私は一歩を踏み出した。
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