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「じゃあ結果はコーディネーターの方へ連絡しますんで」
「はい。よろしくお願いします」
失礼します、と狭い会議室を辞した。ほうっと大きく息を吐いた後、階段に続く長い廊下を内田さんと並んで歩く。
「どうでしたか? 原さん」
「はい、先方がOKであればお願いしたいです」
「判りました。いやあ、原さんは面接慣れしてるから、私どもは安心して紹介出来ますよ」
私は無言のまま、小さく頷いた。面接慣れだなんて言われたってそれは褒め言葉じゃない。短期の仕事が多いから必然的に面接の機会が増え、慣れてしまっただけだ。本音を言えば面接なんかには慣れたくない。
(どうせ私は短期ばかり)
派遣登録時、確かに「短期でも可」にチェックを入れた。大学卒業後しっかり就職をしたり、結婚して家庭に入る友人たちを見ていたら、早々に就職戦線から離脱した自分は仕事を選べる立場には無いと思ったからだ。仕事の中身を選んで無職を貫くよりも、中身を選ばずに職に就く。それが正しいことなのだと。新卒という年齢を――二度とやってこない大切な時期を無駄にしてしまった自分にはそれがふさわしいのだと。
(お兄ちゃんはしっかり公務員だし)
三つ違いの兄はストレートで国立大学に入り、そのまま安定した県庁職員となった。母親が何かある度に「お兄ちゃんはしっかりしてるのに、まひるは……」と言うので、それが嫌で実家を出た。だから意に沿わない短期の仕事だって続けているのだ。
(何だかんだ言っても、短期派遣の方が楽っちゃ楽なのよね)
こう短期が続くと、もう長期の仕事はできないだろうとも思う。何事にも深入りしない、力を入れすぎない。折角の努力だって期間満了時には全て無かったことになる。責任感を持たずのらりくらりと仕事をして、毎日の暮らしに困らない程度に稼げればそれで良い。
内田さんは軽い口調で言う。
「課長さんも良い雰囲気でしたし。多分、いや間違いなく原さんで決まると思いますよ」
「ありがとうございます」
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