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「この間面接した人なんて……あ」
正面から男の人が歩いてきたので、私は内田さんの後ろに並ぶようにして道を空けた。背が高く、吊り上がった眼鏡を掛けた強面の人である。
「「こんにちは」」
「こんにちは」
その人は短く挨拶を返し、無表情のまま通り過ぎて行った。首からネームカードを下げていたからきっとここの社員なんだろう。
内田さんは私に顔を近付け「随分と怖そうな人でしたね」と囁いた。
「…………」
私はその言葉には返事をせず、後ろを振り返った。その人の背中は今まで私たちが居た会議室の方へ消えていく。
「じゃ、行きましょうか」
内田さんの言葉に今度は「はい」と返事をした。
――こんにちは。
ほんの一言だったけれど、低い声が耳の奥に残った。
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