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出雲
十月
入社して半年。ようやく会社の雰囲気と仕事に慣れてきた、ような気がする。馴染めないと思っていた部署でもどうにか上手く立ち回れるようになってきし、仕事もだんだん面白く感じられるようにもなってきた。上司にも褒められる。褒められると嫌いだと思っていた人への感情も変わってくる。仕事へのやる気も出てくる。入社半年で、やっと好循になってきた。明確なきっかけは分からないが、ある時から飛躍的に伸びるものかも知れない。俺は自分がすごく優秀と思ったことはないけれど、伸びしろだけはあると信じている。
ただ一方で毎日の倦怠感が強くなってきた。土日で疲れが抜けない。仕事に力を入れている反動だろうか。
桃がいつものように明治神宮の近くに姿を現したのは十月の下旬、伊勢旅行に行ってからほぼ一ヶ月くらい経った時だった。その日は上司とかなり飲んでいたので、足元が少しフラついていた。
「水木」
「久しぶり、元気だったか?」
「俺は元気だが、お前顔色良くないな」
「ああ、ちょっと疲れてて。疲れているというか、力が入らないというか。季節外れの五月病ってやつかも…て五月業って桃には分からないか。にしても俺そんなに顔色悪いか」
俺は冗談めかして笑ったが、桃の表情は真剣だ。
「呪いが強まっている感じがする。早めになんとかしないとまずい」
呪い?そう言えばそんな話あったな、というくらいに記憶は朧げになっている。なんでだろう。
「どうして出雲行かないんだ?条件は整っているんだろう?」
そう、準備はとっくに整っているはずである。それなのにいまだに出雲に行けていないのは多分一つのささいな事件が起こったことによって、タイミングを逸してしまったことにある。一度タイミングを逃すと、あれよあれよという間に、時間だけが過ぎていってしまった。
*
伊勢旅行から帰ってきたのが、日曜日の夜。九鬼光から連絡があったのは、その週の木曜日の夜だった。LINEで連絡がきた。預かっていた鏡が、保管しておいた場所にないという。一大事だ。事情を聞くため、夜十一時すぎに電話で話すことにした。
光ちゃんと電話で話すのは初めてである。どうせなら、もっと楽しいテーマで話したかったものだ。最初にひとしきり謝られたあと、光ちゃんは切り出した。
「心当たりはあるんです」
心当たりとは、光ちゃんが巫女のアルバイトをしている神社のことらしい。少し間を置いて続ける。
「妹がそこの宮司さんに渡した可能性があります」
「流奈ちゃんが?」
なぜだ。流奈ちゃんにとって、何のメリットがあるというのか。
光ちゃんの話はこうであった。
流奈ちゃんは、光ちゃんが巫女のアルバイトをしている近所の神社に、学校を休みがちになってからも、割と頻繁に行っていたらしい。流奈ちゃんは学校や家での悩みをそこの宮司さんには話していたようである。光ちゃんは、「学校や家族から切り離された場所の人だったから、話しやすかったのではないでしょうか」と言っていた。駆け込み寺ならぬ、駆け込み神社ってことか。
九鬼家はこの神社の氏子ではないが、もともと一家と宮司さんはつながりがあり、姉妹も小さいころからよく行っている神社だった。光ちゃんのバイトも両親を通して紹介してもらったそうである。
「昨日の夕方、妹は神社に行ってくると言って、家を出ました。その時は特に不振に思っていなかったのですが、夜寝る前に保管しておいたはずの鏡がなくなっていたんです。午後見た時はあったのに」
保管場所を知っているのは、光ちゃん以外は流奈ちゃんだけである。そもそも家族で鏡のことを知っているのもその二人しかいない。ならほぼ決まりではないか。でも流奈ちゃんがその宮司に鏡を預ける理由はなんなのか。
光ちゃんは当然妹を問いただすが、「知らない」の一点張りだった。光ちゃんは流奈ちゃんのことを心配しているとは言っていたが、流奈ちゃんの方は姉と距離を置いているのだろう。旅行中も、姉妹同士でコミュニケーションを取っている様子はほとんど見受けられなかった。
とにかく、俺はいくつかできることを検討した。
⒈ 俺が流奈ちゃんに直接聞いてみる
⒉ 二人でその宮司さんに直接問いただしてみる
⒊ 流奈ちゃんが神社に行く時に尾行して、現場を抑える。
光ちゃんは「⒈俺が流奈ちゃんに直接聞いてみる」を希望した。問題はどうやって会う理由と機会を作るかだ。さすがに家に直接行くのは憚られる。
「本人が否定していて証拠もないしなあ」
結局その場では良い案が出なかったので、作戦を決めるのは先送りになった。光ちゃんが「日曜日にアルバイトがあるので、それとなく宮司さんの様子を探ってみます」と言って会話は終了した。
電話を切った後、少し考えて、これは思いの外やばいのではないか、と思えてきた。「七日間保有のルール」である。光ちゃんに鏡を渡したのは日曜日なので、その週の水曜ならば、まだ一週間経っていないから、光ちゃんに保有権はない。とりあえず日曜日のアルバイトの時、光ちゃんに様子を聞いてもらってから早急に方法を考えよう。でももし。もしである。その宮司が邪な動機で、鏡を自分のものにしようとしているのならば、本当のことを話すはずがない。考えて見ると、神職ならば俺よりよっぽどあの鏡に希少価値を見出すのではないだろうか。いや希少価値どころではない。何しろ神器である。あれを手に入れた経緯を信じるかはさておき、あの鏡には、美術品や工芸品に疎い俺ですら、はっとするような美しさがある。いよいよ、不安で胸がざわついてきた。
白状すると、この時俺にはもう一つの選択肢があった。多分、一番有効なのだが、自分の非力さを認めるようで、光ちゃんの前で言えなかったのである。チンケなプライドが邪魔をして提示できなかったその選択肢は、
⒋ 寶井先生に相談する
だった。本当はプライドだのなんだの、悠長なことを言っている余裕はなかったのに。そうじゃなければ、せめて桃には相談するべきだったが、それも会いにいく手間を考えると億劫に思ってしまったのだ。
日曜日の夜光ちゃんからLINEがきた。証拠はないけれど「限りなく黒に近いグレー」という感触だったらしい。最初にさりげなく、流奈ちゃんが訪ねてこなかったか聞いたら否定されたが、そんなはずはない、神社に行くのをみた、とカマをかけたら、「忘れていたがそうだったと」とぼけられた。警戒されると嫌なので、それ以上は追求しなかったとのことである。もう一つ俺が見落としていた大事な情報があった。宮司には奥さんと小学二年生の娘がいる。俺はツクヨミの言葉を思い出していた。
「アマテラスが授けた神器の所有者は女性でなければならない」
「基本的に七日間手元においた人間かもしくはその家族が所有者になれる。鏡は女性に限定されるが。手元に置いておくのは本人でも家族でも構わない」
宮司本人は所有者にはなれないが、家族である奥さんか娘さんならば可能だ。仮に宮司が本当に鏡のことを知っており自分のものにしようと企み、二人のどちらかを巻き込んで家族所有にしているならば、俺たちは一週間以内には取り戻さないといけない。そうしないと鏡は宮司の奥さんか娘さんのものになってしまう。
俺は決めた。宮司が限りなく黒に違いなら、流奈ちゃんに話を聞くのは後回しにしてでも、先に鏡を取り戻すべきだ。選択肢は。
⒉ 二人でその宮司さんに直接問いただしてみる
だ。ただ、今度聞いてみる相手は、娘さんか奥さんになるかも知れないけれども。
*
タイムリミットは水曜日。すでに日曜日の夜だ。光ちゃんは、火曜日の巫女さんのバイトを同僚から変わってもらえたので、バイトが終わるタイミングで俺も神社を訪問することになった。仕事は理由をつけて早退するようにした。
光ちゃんにあらかじめ、夕方「知人が相談したいことがあるそうので、乗ってあげてくれないか」と伝えてもらう手筈になっている。相談の名目は、そのままストレートに「呪いに関する相談」だ。神社に相談するのは不自然なことじゃないだろう。あと、光ちゃんには、もし娘さんか奥さんと二人きりの状況になったら、さりげなく鏡のことを聞いてもらうようお願いした。
結局、寶井先生にも、流奈ちゃんにも話さずに作戦を実行することになった。
火曜の十七時に、俺は教えてもらった神社についた。伊勢の月夜見宮ほどではないが、確かに神秘的な暗さがある。日が落ちるのが早くなったこともあるが、境内の入り口に立つともうほぼ真っ暗である。「良かったら、今度私がアルバイトしている神社にお参りに来てください」と言われたが、まさかこんな形で来ることになるとは。
入り口で光ちゃんと待ち合わせをしていた。俺は二分くらい前についたが、光ちゃんはいないようだったが、実はちゃんと近くにいた。ただでさえ暗いのに、なんだか木の影に隠れていたので全然気がつかなかったのである。バイトが終わって着替えたのだろう、私服姿の光ちゃんが手に持っているものをみて、「あ!」と思った。鏡である。
「娘さんが持っていました」
学校から帰宅してきた宮司の娘さんを捕まえてさりげなく、鏡のことを聞くと、父親から鏡のことは聞いており、小さな神棚に祀ってあるという。後で返しておくから、見せてくれないか、というと、戸惑いながらではあったが、取って来て見せてくれた。間違いないと確信すると、バイト終わったら返すからと言って、預かった。それが二時間くらい前である。運良く宮司と奥さんは一日中出かけていた。神社で行われる秋祭りの打ち合わせらしい。
「もしこのまま持って帰ったら罪悪感でいっぱいになっちゃう」
それはそうだろう。しかし持って帰らないわけにはいかない。
「本当は宮司さんに直接問いただすのがいいんだけど、俺たちのものっていう証拠もないしなあ」
ふと思い出したように、光ちゃんはスマホを取り出す。
「これじゃ証拠にならないでしょうか?」
画面に映っている写真は、光ちゃんの部屋と思しきところで、全身鏡に映っている光ちゃんが例の鏡を抱えている写真だった。
「これ、私の部屋です」
法的な証拠になるかは分からないが、常識に照らし合わせれば光ちゃんの持ち物で通るのではないだろうか。じゃあ、これで宮司を問い詰めるか。でも俺はその前にやった方が良いと思うことがあった。
「光ちゃん、これで鏡が宮司の手にあったことが確定した。じゃあどうやって手に入れたかというと、もう流奈ちゃん経由しかない」
光ちゃんは頷く。
「宮司に会う前に経緯を聞いておきたい。なんでこんなことしたのかも」
光ちゃんが連絡すると、十五分後くらいに流奈ちゃんは神社にやってきた。暗くて表情はよく分からないが、晴れやかでないのは確かだ。俺の姿を認めると、ビクッとしたようにも見えた。どうやって切り出そうかと悩んでいると、
「ごめんなさい」
と観念した流奈ちゃんの方から話してくれた。
光ちゃんの言った通り、前週の水曜日の午後、流奈ちゃんは神社に来た。いつも話を聞いてもらっている宮司さんに伊勢でのことを話したそうだ。俺は内心ビックリした。確かに誰にも口止めはしていない。それは「言っても誰も信じないだろうから、誰も口外しないだろう」という思いをみんなが共有していると思ったからだ。けれども、それは俺の一方的な思い込みだった。
流奈ちゃん曰く、宮司は面白そうに話を聞いてくれ、その鏡をみてみたい、と言った。
迷ったが「私なら、その鏡について何か分かるかも知れない」と言われ、好奇心に負けて一度家に取りに帰った。宮司はその鏡を食い入るように見つめ「少しの間預からせてもらえないだろうか」と言った。それは断ろうとしたのだが、
「これが本当に神器ならば、粗雑に扱うのは危ない。必要なタイミングでお返しするからうちで祀っておいた方が良い。それからこれは自分のエゴであるが、神道の研究の一環として役立てたい」
と言ったそうだ。それでも迷っていたが、
「それと、もしこれに何か神聖な力が宿っており、祀っておくことでご利益があるのならばすがりたい事情がある。娘が学校で心無いことを言われ、鬱ぎ込んでいるようなのだ」
その言葉で流奈ちゃんの心は決まった。いずれは返してもらうつもりだったが、さすがに翌日では早すぎると感じていたのだろう。
「でも七日間持っていないといけないのよ。それに宮司の娘さんが七日間持っていたら、あの子が所有者になっちゃうじゃない!」
咎める声で光ちゃんが言うと、流奈ちゃんは
「えっ?」
という予想外の反応をした。まるで「初耳なんですけど」みたいな反応だ。
ここでまた一つ認識のすれ違いがあった。流奈ちゃんは「七日間ルール」を把握していなかった。ツクヨミがそのルールを説明した時には、すでに神路通から立ち去っていたし、俺が改めて光ちゃんに説明していた時もヘッドフォンを聞きながら歩いていたのでろくすっぽ聞いていなかった。
俺はため息をついた。でも事実がはっきりした以上、これを光ちゃんが持って帰る権利はあるはずだ。それでも
「あの子に黙って持って帰ったら、それは流奈がされたことと同じじゃないかしら?」
と言われたら、その正しさを認めざるを得なかった。
*
「それは申し訳ないことをしました」
ここは宮司の家の居間である。座卓に座っている俺たちの前には、宮司が自ら出してくれたお茶と饅頭が二個置いてある。「ここの神社が経営している甘味処で出しているお茶と厄除け饅頭です」と出すときに説明してくれた。暗くて気づかなかったが、境内には小さな甘味処があるらしい。高杉くんから聞いた通り、飲食店を経営する神社やお寺は存在した。光ちゃんによると、世の中には「神社カフェ」なるカテゴリーも存在するのだとか。やっぱり神社みたいな聖域感がある業態もビジネスを考えるんだな、改めて実感した。それが良いことか悪いことか、今は分からない。
宮司は藤原信夫(しのぶ)という名だった。宮司とは神主(つまり職業としての神職)の職階(つまり地位)が一番高い人で、祭祀を司る責任者である。神社の偉い人というステータスから年配のいかめしいおじさんを思い描いていたから、ここの宮司である藤原氏に会った時、俺のイメージは見事に覆された。
歳は三〇代半ばだろうか。でも二十代後半〜四十代前半くらいだったら何歳と言われても納得できそうな風貌だ。知的な雰囲気と柔らかい物腰など寶井先生と共通点が見出せるが、先生が明るくさわやかな印象なのに対し、この人は影があって覇気のなさそうな感じだ。よく言うとミステリアス、悪く言うと陰気。前髪が長く目が隠れている。見にくくないのだろうか。とにかく積極邸に人とコミュニケーションを取るタイプには見えなかった。これで宮司が務まるのだろうか。
事情を説明すると、藤原氏は一もなく二もなく鏡の返却に応じてくれた。俺は喧々諤々のやり取りも覚悟していたので、少々拍子抜けたくらいだ。そして娘さんが近くにいないことを確認すると
「こちらの事情は流奈ちゃんに話した通りです。あなたたちの事情も考慮せず申し訳ない」それは七日間ルールのことだろうか?
藤原氏はお茶とお菓子を勧めた。せっかく出されたものを食べないのも悪いなと思いつつ、まだこの宮司が信頼しきれないせいか、手をつけるのを躊躇する。九鬼姉妹をみると、流奈ちゃんはすでに饅頭を一つ食べ終えており、二つ目に取り掛かっている。美味しそうにパクついているところをみると「高校生っぽいな」と変なとこで感心した。光ちゃんも一個目を半分食べ終え、品良くお茶を啜りながら、俺の方を向く。
「おいしいですよ」
馴染みがあるのだろう。お茶はほうじ茶のような色だが、今まで飲んだことがないような味だった。苦味がほとんどなくわずかに酸味を感じる。一瞬びっくりしたが、とてもすっきりしているので飲みやすい。しかも気持ちが整っていく感じがする。どこのなんていうお茶だろう。
「お茶は体に良い発酵茶です。水も他所のですが、神聖な神社の湧き水を使っています」
本当はお酒もおすすめなんですが、未成年もいますしね、と付け加える。
「ちなみに、饅頭を作るときにも同じ水を使っているんですよ」
饅頭の表面には「ॐ」という不思議な文字が刻まれている。梵語という文字らしい。
「あれ、私のと違う」
流奈ちゃんがこっちを見ている。流奈ちゃんはもう饅頭を食べ終わっていたが、光ちゃんの残っている方の饅頭をみると表皮にデフォルメされた猫の顔が刻印されている。
「男の子には、猫の刻印は可愛いすぎるかな、と思いまして」
この宮司、意外と細かいところまで意識している。でもあいにく俺は猫の顔の方で良かった。犬も好きだが、猫も大好きなのだ。でも、恥ずかしくてこの場では口に出せない。
「それにその梵語は神聖な文字なので、水木さんの呪いを払うには良いと思いまして」
「藤原さん、俺の呪いの話、信じます?あ、呪いというか、この話全体」
「にわかには信じがたいが、神職が信じなくて誰が信じればいいのだろうという気がします」
なるほど。正論だ。
「それに私個人としては、あまり大きな声では言えないが、祭祀を司っているより、神道を研究している方が性に合っているようで。神道だけでなく神秘にまつわる研究会にもよく顔を出しています。そうすると、面白い話が聞けてとても刺激になる。流奈さんたちの話もとても興味深い」
クククと笑った。掴み所のない人である。やっぱり、あわよくば…と思っていた可能性もぬぐいきれない。お茶や饅頭に毒とか入っていないか不安になる。俺の思いをよそに、ガサゴソと和菓子でも入っていそうな小さな紙袋を座卓の上に乗せる。
「お詫びといってはなんですが、これを差し上げます」
神袋の中には、三人数分の瓦せんべいパックと発酵茶の茶袋、そして神札(しんさつ)と薄い文庫サイズの本が一つずつ入っていた。神札はともかくこの本はなんだ?どこかで見たことある気がするが。
「陰陽師の呪文が記された実践の書です」
パラパラとめくってみると、毛筆の書体っぽい漢字が一ページに一文字だけ書かれたページが何枚かある。よく見ると、小さく、本当に小さく読み仮名がふってある。
「それは印刷ではなく、高名な書道家が和紙に一文字ずつ直筆してくれたものなんです」確かに達筆だ。見ていると心が引き締まる気がする。でもコレが何かは分からない。
「九字です」
「クジ?」
「呪力を持つとされる九つの漢字による陰陽道の呪文ですよ。陰陽道や密教、修験道などで護身のために用いられるようになったそうです」
へえ。
「まあ呪文などに興味がなくても、神札と同じようにお守りとしてどうぞ。これ自体霊力が宿っているものなので」
そうすることにしよう。宮司はクククと笑った。九鬼家にはすでに神札があるそうだんおで、神札は俺が、本は光ちゃんが持って帰ることにした。あと厄払いもしようかと提案されたが、時間も遅かったので辞退した。あと、お酒も持っていかないか、ミキノツカサがつくっている由緒ある酒だ、とやけに押され、興味はあったものの、結局はそっちも丁重に辞退した。
帰り際、もう一度宮司が俺を呼びとめた。
「社会人一年目、ということは今年二十三歳ですか?」
俺は一浪しているので。今年二十四になる。そう伝えると、
「厄年、しかも本厄ですね。悪いモノがつきやすく、しかも落としにくい年だ。無理にとは言いませんが、厄払いはした方がいいですよ。ここでなくても構いませんので」
今度は思いの他、真剣な声だった。わかりました、一度考えます、と答えた。そういえば桃は以前、俺くらいの年齢で似たような状況のやつがいたと言っていた。ツクヨミも今の俺は運気が良くないと言っていた。呪いにかかる確率は完全に同じではなく、厄年という要素が影響するのだろうか。
神社から出る時、流奈ちゃんの「ちょっと似てません?」という発言に、一瞬誰と誰を比較しているのか分からなかった。すぐに俺と宮司のことだと分かって「どこがだよ」と言おうとしたが光ちゃんが「確かに」と言ってクスクス笑っていたので何も言えなかった。もちろんいい気はしない。
「髪、もう少し短い方がかっこいいと思いますよ」
あくまで私的にはですけど、と付け加えてアドバイスをくれた。流奈ちゃんもうんうんと頷いている。この姉妹、息が合うことあるんだな。
とにかくこれで一安心だ。また一週間経てば、今度こそ神器の鏡の所有者は光ちゃんになる。そうしたら出雲に行って終わりだ。とりあえずその場は解散して、一週間後にまた連絡を取り合うことになった。難しいことは何もないはずだ。なのに、この茶番とも言える一件によってタイミングを逃してしまい、色々なことが上手くいかなくなってしまった。世の中のたいていのことは「鉄は熱いうちに打て」なのである。
*
伊勢で高まった俺のテンションは完全に下がってきている。光ちゃんもそうだろう。一週間後に連絡は来たものの「いつにしようか」という話になると、なかなかスケジュールが合わなかった。主に光ちゃんのスケジュール調整が難航した。学校が始まると、勉強が忙しくなり、週末は友達との予定がどんどん入り、土日両方あけることが困難になってきていた。無理もない。去年のこの時期、決して友人が多い方ではない俺ですら毎週末はなんらかの予定は入っていた。
俺もすでに述べたように、仕事が少しずつ充実してくると、呪いのことも出雲ことも、だんだんと記憶の片隅に追いやられていった。家に帰ってくると身体がだるくて、面倒臭いことは考えたくなかった、というのもある。桃に合わなければ、俺は思い出せなかっただろう。そして今ですら、出雲に行こうという気にはまったくなれない。
「ダメだ!もう悠長なことは言っていられない」
「大げさだな。確かに今疲れているように見えるけど、それは仕事で頑張ってる反動だよ」
「今日来たのは、光が少し前と様子が違って来たからなんだ。やっぱり神器は長く持っていちゃいけない」
「変わった?へえ、どんな風に?」
桃は答えず代わりに、何かを思ったのか、「今日は家まで送って行こう」と言った。
「なんで?」
「足元ふらふらだろ?別に友達が送っていっても、不自然じゃないはずだ。大学時代の先輩でいいな」
「フラフラしているかも知れないけど、全然余裕だよ」
いいから、と珍しく強引な桃に押し切られて、家まで送ってもらった。家のチャイムを押すと松葉杖の母親が出迎えてくれた。桃は挨拶した後、俺を部屋まで連れていく旨を告げる。桃の言う通り、母親も父親も特に不審がることはなく桃を家にあげてくれた。大学の時は、友達が家に遊びにくることが結構あったので、なんだか懐かしい感覚だった。
最近ろくに部屋片付けて胃いないから恥ずかしかったが、もう仕方ない。
部屋に着くと、桃はすぐに聞いてきた。
「お前の母親、足どうしたんだ?」
「駅の階段でぶつかって落ちたらしい。運悪く変な体勢で着地してしまったんだと」
「それいつだ?」
「二週間くらい前かな」
「心配じゃないのか?」
「うーん、別に命に関わることじゃなさそうだし」
桃は「まずいな」とつぶやいたように見えたが、母親については、それ以上何も言わず、別のことを聞かれた。
「勾玉はどこだ?」
俺は机の中から取り出した。
「ダメだろう、こんなに雑に扱っちゃ」
桃は怒っている。そんなに怒るなよ。桃はキョロキョロとあたりを見回している。そして机の上に無造作に置かれている神札と瓦せんぺいのパック、それから茶袋に目を留めた。
「少しいじるぞ」
桃は本棚に空きスペースを作り神札を立てかけ、その前に勾玉を置いた。おお、なんか祀ってあるように見える。
「この位置を変えるな。それから、朝と夜、勾玉に礼をしろ」
「分かった」
「本当は二礼二拍手一礼が一番いいが、どうせそんな時間ももったいないんだろ」
鋭い。絶対続けられない。
「この菓子とお茶は、宮司にもらったものだな」
酔っ払った頭でふと思った。あれ、あの宮司の一件こいつに話したっけ?俺が尋ねるより早く、お湯もらってくるぞ、その間にこれ食べておけ、瓦せんべいのパックを差し出して下に降りていった。腹は減っていなかったが、言われるままにパックをあける。瓦せんべいは2枚入っており、以前宮司の家で食べた饅頭と同じ梵字が刻印されている。なんだろう。なんか心が落ち着く。一枚目をかじっているとティーパックのお茶が入ったコップを手に、桃が戻って来た。
「瓦せんべい美味しいぞ。二枚入っていたから、一枚あげるよ」
「いや、両方お前が食べろ、少しは元気になるはずだ。あとこのお茶も飲め」
強い口調だったので、言われた通りにした。瓦せんべいを食べて、お茶を飲みきる頃、激しい睡魔が襲ってきた。
「残り四つ入っているから、できれば毎日飲め。あと電話借りていいか?先生と話したい」
俺はスマホのロックを解除して先生にLINEで「桃が話したいそうです」と打った。十分後、電話がかかってきた。桃がそれを受け取って会話が始まったのを見届けるまでは覚えている。でも気がついたら眠っていた。
朝、目が覚めると、ここ何日かではだいぶ気分が良かった。スマホをチェックすると先生からLINEが届いていた。
「至急で予定を調整して、会いましょう」
俺はあいている日を送った。そして、本棚の勾玉に二礼二拍手一礼をしてから出社の支度をした。
結局先生と会えたのは、十月の最終週の月曜日の夜だった。光ちゃんも来る予定になっている。七時半に、待ち合わせ場所の新宿のカフェバーに着いた。先生はすでにいた。シャツの上に着ている青色のニットベストが鮮やかだ。先生は、青系統を見につけていることが多いな、と思った。そしてよく似合っている。先生が爽やかだから似合うのか、青を身につけているから爽やかに見えるのか、どっちだろう。
今日の青は濃い色で少し緑がかっている。色彩感覚の鈍い俺は、一口に「青」と言っても、その中には様々な青があるんだと思い知った。きっとこの人は、その辺の感覚も鋭くて、季節やコーディネートや気分によて色々な青を使い分けているんだろう。ちなみに俺は黒いプルオーバーのパーカーだ。
「ご無沙汰してます」
「やあ、桃くんに聞いた時よりは元気そうだ」
しばらく雑談していたが、光ちゃんは来ない。
「光ちゃんから連絡ありました?」
先生は首を横に振った。いつも時間より早めに来る彼女にしては珍しい。
「こんばんは」
女の子の声がしたので、振り返ると光ちゃんではなく流奈ちゃんだった。大きめのサコッシュをかけている。
「あれ?」
「お姉ちゃんが、先生と水木さんとちょっと会うから、一緒に来ないかって言われて」
「そっか。大歓迎だよ。それでお姉ちゃんは?」
「準備に時間かかっているみたいで、先に行っていて欲しいって」
なんからしくない。とりあえず飲み物と軽くつまむものを注文した。「どうぞ飲んでください」と言われたが未成年の手前、お酒は遠慮した。八時を少し過ぎたくらいに、光ちゃんは来た。一瞬、本人だと分からなかった。俺が知っている光ちゃんよりも化粧が派手で、服装もラフではなく、女性ファッション誌のモデルが着ているものをそのまま切り取った感じだった。もともとが美人でスタイルが良いため、とてもよく似合っている。こっちを何人かの他の男性客が見ているのは気のせいではないだろう。
「遅れてきたのに、申し訳ないんですけど、九時ちょっと前には出なくてはいけなくて」
別の飲み会があるらしい。引き止める権利はないが、寂しいと思うのはどうしようもない。そして、俺の個人的感情は置くとしても、今日の相談はうまくはいかない予感が強くしてきた。相談というのはもちろん、出雲に行く日程調整である。
桃が勾玉を神札と一緒に本棚に設置してくれてから、倦怠感は相変わらずあるが、少しずつ早く行かねば、という気持ちになってきた。もしかしたらお茶の効果もあったかも知れない。一通り最近の近況などを話してから、日程の件を切り出すと
「ごめんなさい、ちょっと今年は予定あけられないかも…」
案の定、である。先生も打開策を思いつかないのか、一回話題を光ちゃんの卒論の方に向ける。どうやら、そっちもあまり進んでいないらしい。結局大した話もできないまま九時十分前に、光ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げて、去って行った。
「さて」
先生はあくまで穏やかに切り出す。
「流奈さんからみて、お姉さんは変わったと思います?我々からしたら、伊勢に行った頃と比べて、雰囲気が変わったように見えますが」
「うーん、雰囲気は変わったかも。九月末に学校が始まってから、見た目も生活もどんどん派手になっていきました」
生活はともかく、見た目については君が言ったらダメだろう、と心の中でツッコミを入れてみたが、「おや?」と思った。流奈ちゃんも、光ちゃんとは違う意味で雰囲気が変わっている気がした。俺は記憶を思い返してみる。まず左耳のピアスがない。あ、髪が黒くなっている!どうしてすぐに気がつかなかったんだろう。メイクはしているが、以前ほどきつくはない気もする。そのせいか雰囲気も伊勢で会った時より柔らかい。
「鏡はちゃんとありますか?」
「今は私が持っています。お姉ちゃん酔っ払って帰ってくることが多くなっているので、大事なもの預けておくの怖くて」
流奈ちゃんってこんなしっかりした子だったっけ?とにかく、あるなら一安心である。だがしかし。
「出雲どうしましょうねえ」
俺は半ば投げやりで、公共の場なのに椅子にだらしなくもたれかかり足を投げ出した。どうせ誰も答えを持っていないと思っていたからだ。実際は違った。
「あの、私行きます」
*
あの時、ツクヨミは言った。
「基本的に七日間手元においた人間かもしくはその家族が所有者になれる。鏡は女性に限定されるが。手元に置いておくのは本人でも家族でも構わない」
家族が所有者になれる、ということは流奈ちゃんでも大丈夫なわけだ。その可能性は全く考えていなかった。でも高校生を一人で連れ出すのは気が引けるし、受験勉強だってあるだろう。そう言ったら「さすがに宿泊は無理だと思うんですけど、用事を済ますだけなら日帰りで行けますよね?」と言われたので、この可能性が現実味を帯びてきた。というか、もはや他に選択肢はないように思えた。一一月二週目の日曜日、奇しくも去年と同じ神無月に俺は出雲に行くことになった。
新宿駅から小田急線で代々木上原に向かう。先生が流奈ちゃんに
「家の近くまで送って行くので、ちょっと鏡を持って来てもらえませんか?」
と頼むと快諾してくれた。我々は近所の小さな公園のような空き地で待っていた。流奈ちゃんはすぐに鏡を持って来てくれた。
「鏡を覗き込んでください」
言われるままに覗き込む。
「腹式で呼吸を整えて、集中して自分の顔を見てみてください」
言われるままに深く息を吸って、鏡の中の自分の顔をみる。愕然とした。なんだこの病人のような暗い顔は?俺は背筋がゾッとした。桃にはこれが見えていのか?これは死相って言うんじゃなかろうか。
「やばいです」
「そのようですね。確認できてよかった」
これは呪いだろうか、それとも勾玉の影響だろうか。どっちにしろ本当に猶予はなさそうだ。それから思うことがあった。
「光ちゃんの雰囲気が変わったのって、神器の影響だと思います?桃も心配していたので」
「さあ…水木くんと違って、生気が吸い取られている感じではなさそうなので、何とも。ただ、神器はしっかり祀っておいた方が良いと思います。流奈さん、鏡はどう保管していますか?」
「うちにもともとあった神札と一緒に、私の部屋の本棚に祀ってあります」
さすがだ。俺とは大違いだ。
「良かった。それで問題ないでしょう」
流奈ちゃんに改めてお礼を言ってから、「巻き込んでしまい申し訳ない」と付け足した。
「とんでもありません。伊勢ではお世話になりましたし」
伊勢で彼女に聞かせてもらった、曲を思い出した。あれから深夜の散歩は控えているんだろうか。
連絡先を交換して流奈ちゃんが家に帰っていくのを見届けて、俺たちは駅に向かって歩き出した。本当は桃を一目みたかったけど、ご両親に見つかるとちょっと面倒だったので、遠慮することにした。駅に着いて先生に、
「先生はまた現地集合でいいですか?飛行機だと便数少ないけど、時間あいますかね?」
と確認したら、予想外の返事が来た。
「いえ、僕は今回は行きません」
え?それは困る。甘えるなと言われればそれまでだが、すっかり来てくれるものだとばかり思っていたのだ。不安が増大する。無駄と思いつつ、あがいてみる。
「日程ご都合悪かったですか?再調整しますよ」
「いえ、日程の問題ではないんです」
ああ、やっぱり。先生の意思は堅そうだ。
「水木くん。この後まだ少し時間ありますか?」
*
十一月
先生が来ないなら、流奈ちゃんも来ないのでは、という点については杞憂だった。
みんなで会った翌日に、流奈ちゃんに先生が来られない旨をメッセージすると、特に理由も聞かれずに「分かりました」とだけ返事がきた。続けて、中止するか?と聞いたが、「大丈夫です」とのことだった。俺としては心苦しい上、女子高生と二人で(日帰りとはいえ)旅行するのは気が引けたが、神器の鏡で自分の顔をみてからは、一刻も早く手を打ちたかった。
出雲に行く日、朝から寒気がしていた。熱がある。おそらく高熱だ。感覚的には三八度は超えている。だが体温計で測りはしなかった。数字で自分の体調不良を示されると勇気がくじけそうだったからだ。どうせ体温計がどんな数字を表示しようと、行かないという選択肢はない。勾玉は昨夜のうちにリュックに入れておいて本当に良かった。そうしていなければ持って行き忘れ、取り返しのつかないことになっていただろう。それくらい意識が朦朧としていた。
六時に品川駅待ち合わせ、という鬼のようなスケジュールになんとか間に合い、二人で京急線に乗り羽田空港に向かう。流奈ちゃんは、今日はメイクをしておらず、ロンTにパーカーを羽織り、下はジーンズにスニーカーだった。持ち物はリュックサックの他に、この間つけていた大きめのサコッシュを今日もかけている。こうしてみるとどこかに遊びに行く高校生そのものである。俺は先生との会話を思い出しながら、「流奈ちゃんと二人で大丈夫でだろうか」と心の中で弱音を吐いた。
朝早いからだろう。京急線の席は空いており、余裕で座れた。流奈ちゃんが鏡を持ってきていることを確認して、自分のことを棚に上げ、ひとまず安心した。電車の中で俺は寝たかったが、気になったことがあったので聞いてみた
「家族には何も言われなかった?朝から出雲いくこと」
「言わないで来ました」
おいおい。
「大丈夫なのか?」
「んー、とりあえず昨日の夜、明日友達と遊びに出かけるとは言っておきました。家出る時みんな寝てましたから、特に何も言われていません」
つまり行き先は言っていないということか。万が一何か事故がおきたら、どうするのか。俺の顔をみて何かを察したのか
「一応お姉ちゃんには言っておきました。そしたら、ありがとうって」
そりゃもともと光ちゃんが行く予定だったからな。
「それより、顔色良くないですよ。大丈夫ですか?」
「ああ、ちょっと熱があるかも知れない」
「寝てください。あとマスク持ってるからつけてください」
かたじけない。お言葉に甘えて俺はうつらうつらしていた。時々目を開けて隣をみると、流奈ちゃんは文庫サイズの何かを読んでいた。小説だろうか。
羽田から出雲縁結び空港(なんて露骨な名前!)までの空の旅は、俺の体調が悪いこと以外は何も問題なかった。というより意識がますます朦朧としてあまり覚えていない。羽田空港で薬を買って飲み、飛行機の中ではずっと寝ていた。一年ぶりに出雲に到着したというのに、感慨どころではなかった。飛行機で寝ていたのに、熱はむしろ上がっているように感じる。視界がグラグラする。下手したら四十度近くあるかも知れない。
バスの時間が合わなかったので、タクシーに乗ることにした。待っているのもつらい。一刻も早くケリをつけて帰りたい。タクシーの中で横をみると、流奈ちゃんが心配そうに俺をみている。ごめんな、本当はもっと観光っぽく行きたかったよな。伊勢の時みたいに。
出雲大社の参道の鳥居に着く。ここは二の鳥居だ。一の鳥居は参道のはるか手前にあり、自動車で通り過ぎた。俺は困ったしまった。どうするんだっけ?ますますぼうっとする頭を懸命に働かせ、ツクヨミの指示を思い出そうとする。
「そしてお前とその者で、神器を持って出雲大社へ行き、オオクニヌシの荒御霊を鎮めるのだ。出雲にも使者を使わしておうっから、あとはその使者に従え」
使者、使者、使者。伊勢の時は鶏だった。ああもう、どうしてどんな姿か教えてくれなかったんだ。立っていてもしょうがないので、俺たちは参道から少し外れたところにある池の近くにあるベンチに腰をおろした。しばらく途方にくれていると
「はい、どうぞ」
隣に座っている流奈ちゃんがスポーツドリンクを差し出してくれた。空港で買っておいてくれたのだろうか。一瞬、あまりの情けなさで自分を取り戻す。これじゃどっちが面倒を見ているほうで、どっちがみられている方か分からないではないか。しっかりしろ。
「朝早かったけど、流奈ちゃんは体調、大丈夫かい」
元気そうに見えたので、この質問に深い意味はなかった。しかし期待していた「大丈夫です」という答えは返って来なかった。
「さっきまで全く大丈夫だったんですけど、ここに座ってから少し寒気が…」
と俺は焦った。やばいな、もう熱が移ったのか。これはグズグズしていられない。あてはないけど、とりあえず参道を抜けて一度本殿の方に行くか。そう思って流奈ちゃんの方を向くと、その視線は前方の何かを一心に見つめている。
俺はその視線を辿る。十五メートルくらい先に蛇がいた。
俺は思い出した。去年来た時、参道を歩いていたら突然、参道脇の木々の合間から一匹の蛇が姿を現し、俺の前を横切ろうとした。距離を置いて通り過ぎるのを待っていると、そいつは俺の正面でとまり、俺の方に鎌首をもたげた。目があった。ゾクッとした。金縛りにあったように動けなかった。その感覚がにわかに蘇る。寶井先生も言っていなかったか。蛇は神の眷属だって。もしかしたらこいつが使者?だとしたら逃げるわけにはいかない。
蛇が近づいてくるのを待った。気のせいか距離が詰まってくるにつれ、寒気がどんどんひどくなってくる。蛇は少しずつ近づいてくる。思ったよりも大きい、黒い色の蛇だ。目があった。その目はひどく不気味だった。なんだ、この異様な威圧感は。形状的には普通の蛇なのに、それ以上の何かがある。
池の周りには人はまばらにいるが、誰もこっちを見ていない。蛇に気がついていないのか。隣をみると、今度は流奈ちゃんの顔色が青ざめているのが分かった。
これはまずいと思った。しかし既に遅かった。流奈ちゃんの手をとってベンチを立とうしたら、強烈なめまいを起こして目の前が真っ暗になった。ベンチに倒れこんでしまう。視界が暗転する。蛇の気配は間近だ。シューシューという息遣いが聞こえてきた。自分の顔の正面に、もたげた鎌首があるみたいに間近に息遣いを感じる。いや、周りの景色は見えないのに、目の前には蛇の顔がみえる。幻覚だろうか。だったら早く正気に戻れ。先生も桃もいないんだ、俺が流奈ちゃんを守らないと。俺は自分の身体に動けと念じる。しかし、頭も身体もどうにも思い通りにならない。
アレだ!脳裏を過ぎったのは、寶井先生がツクヨミの金縛りから脱した時に発生した言葉。たしか、古代ヒンドゥー教で神聖視されている呪文。神聖なエネルギーの象徴。だが肝心の言葉が思い出せない。こんなことなら、しっかり記録しておけば良かった。だが不甲斐なさを嘆く余裕なんてなく、自分の目線と蛇の目線が同じ高さになった。かろうじて保っていた意識が途切れそうになるくらい怖い。
吹きかけられる生ぬるい吐息と耳障りな声で、嫌が応にも正面に意識が向いてしまう。そして信じられないものをみた。その蛇は俺を人飲みにできるくらいの大きさになっていた…まるで伝説のオロチだ。上顎に鋭い牙が日本ついているその口から、二股に分かれた真っ赤な舌を前後に動かしている。舌の動きがまるで何かを喋っているようだ。逃げないといけないのに、ショックで身体も思考も全く働かない。蛙が蛇に追い詰められて捕食される時、これから自分が点滴の餌食になる瞬間の恐怖はこんな感じなのだろうか。鞭のようにビュンビュン揺れる舌が左の前腕にあたる。服の上からなのに全身が震える。そして大蛇はその深淵のような口を大きく開き、今にも飲み込まれそうだ…
お経のような声が聞こえて、徐々に意識が戻る。気を失っていたようだ。
「……とう、しゃ…」
オロチの息遣いがにわかに遠のいていく。誰が何を言っているんだ。もしかして先生が助けに来てくれたのか?俺はうっすら目を開けることができた。大蛇の幻覚は消えており、足元にもとのサイズのままの蛇が固まっている。流奈ちゃんが一心に何かを言っている。いや、唱えている?
「…れつ、ざい、ぜん!」
やっと視界がクリアになった。流奈ちゃんは手にサコッシュから取り出したと思われる冊子を持っている。
臨(りん)!
兵(びょう)!
闘(とう)!
者(しゃ)!
皆(かい)!
陣(じん)!
列(れつ)!
在(ざい)!
前(ぜん)!
流奈ちゃんが呪文のような文言を繰り返していると、黒い蛇は徐々に俺たちから離れていく。気のせいか。見た目は変わらないのに、先ほどまでと比べて不気味な印象が弱まっている。十分な距離をとった後、蛇は最初から俺たちには関心がなかったかのように、池の中に消えていった。視界から消えて少し経ってから、流奈ちゃんは呪文を唱えるのをやめた。それでも警戒は解かない。もちろん俺もだ。
そのまま何分経っただろう。もう大丈夫だろうと思った頃には、全身汗でビッショリだった。
「もう大丈夫みたいですよ」
流奈ちゃんが疲れ切ったような顔に、かすかな笑みを浮かべた。
「九字、暗記しておいて良かったです」
*
使者は二匹のネズミだった。あの不気味な蛇を退散させてからすぐに現れた二匹をみて、直感的にこれだ、と分かった。ネズミたちはついてこい、というように俺たちの方を振り向きつつ境内を進んでいった。どうやら、他の参拝客には見えないらしい。参道に戻り、三の鳥居を抜け、四の鳥居を抜け、拝殿と垣に囲まれた本殿を迂回した。そして、大社に裏手にあたる「八雲山(やくもやま)」に面した岩場で止まった。ここなんだろう。俺は流奈ちゃんから鏡を受け取った。ツクヨミに言われた通り、紐を通しておいた勾玉を首からかけ、鏡に自分の姿を映し、心の中で精一杯「呪いよ、去れ」と唱えた。今振り返れば、もう少し言葉を工夫しても良かったと思った。
これで一気に身体が軽くなった、というようなことには残念ながらならず、まったく何かが変わったような実感は得られなかった。しかし、ネズミたちは物欲しそうにこちらをみている。勾玉を片方のネズミに渡すと、受け取って口に咥えた。鏡はどうやって持つのだろうと思いつつ、もう一匹に差し出すと、「乗せろ」というように、背中をこっちに向けたので背中に乗せた。実に器用にバランスをとって、背中に乗っけたので驚いた。この後何かあるのかと期待したが、ネズミたちは自分たちの役目を果たしたとばかりに、林の方に消えていった。クライマックスにしては、イマイチ盛り上がりに欠ける感はあったが、これで一見落着である。時計を見ると、時間はもうすぐ十一時だ。帰りの飛行機は夜七時なので、八時間以上ある。時間がどれくらいかかるか分からなかったので、一番遅い便を取っていたのだが、八時間は長い。どうやって時間潰そう。
「体調、大丈夫ですか?」
流奈ちゃんに聞かれた。疲労困憊である。でも大量に汗をかいたせいだろうか、少し熱は引いた気がする。
「大丈夫だよ。全部、流奈ちゃんのおかげだよ」
これは社交辞令でもお世辞でもない。本心だ。
「流奈ちゃんは?寒気は引いた?」
頷いた。大丈夫なようだ。ただ、疲れている感じは否めない。グウとお腹がなる音がした。俺のではなく流奈ちゃんの。恥ずかしそうに俯いている。
「朝ごはん、食べてなくて」
つぶやくように声を出した。
「じゃあ、本殿と拝殿だけ参拝して、一回出て、お昼食べようか。その後、元気があったら、また戻って他のところも見よう」
今俺たちは本殿の真裏にいるので、本来の参拝ルートとは逆だが、本殿を参拝してから、参道に近い拝殿を参拝する。出雲大社の本殿は、伊勢と同じく垣に囲まれているので、外側からの参拝になる。出雲大社は参拝の作法が他の神社とは違う。通常の神社参拝は「二礼二拍手一礼」だが、出雲大社の場合、「二礼四拍手一礼」が正式な作法になる。すっかり忘れていたのだが、身体が思い出してくれた。流奈ちゃんは本殿の方は「二礼二拍手一礼」で参拝したが、俺のやり方をみて拝殿の方は四拍手で行った。財布からお賽銭用に五円玉を取り出す時、以前高杉くんがくれた玄武のお守りが破れていることに気がついた。もしかして身代わりになってくれたのだろうか。
この礼と拍手の儀式を行うと、だいぶ心が落ち着いてきた。落ち着くと、逆に自分が情けなくなってきた。伊勢詣での時、寶井先生に頼りまくった時も情けなかったが心のどこかで先生にだったら、頼っても良かったと思っていた。甘ったれているといえば、反論のしようがないが、本心はそうなのである、でも、今回は自分より年下の女の子で、しかも高校生に助けてもらったのだ。恥、とまでは言わないが、「しっかりしろよ!」と自分に言いたい。伊勢で年上ぶって諭していたのはどの口か。
まったく進歩しない俺は「何か食べたいものある?」と伊勢詣での時と同じセリフを口にしてしまった。もしまた「なんでもいいです」だったらどこにしよう、などと考えていたら、
「出雲そば!」
という答えが返って来た。そして流奈ちゃんは「ここ行きたいです」とサコッシュからガイドブックを取り出して印をつけた店を指差した。
出雲そばは日本三大そばの一つで、見た目が黒っぽく香りと味が強いのが特徴らしい。暖かいのと冷たいのがあるが、ビジュアル的には冷たい方が、よく知られているのではないだろうか。三段重ねになっていて、一段ずつつゆをかけて食べていくのである。二人とも冷たいのを頼んだ。
「おいしい」
俺は頷いた。おろしをかけた冷たい蕎麦が、だるくて熱っぽい体に染みわたる。最高だ。やっと一息つけた気がする。食べた後、行きに空港で買った薬を飲む。俺は改めてお礼を言った。
「九字の冊子、持ってきて良かったです」
「寶井先生が助けに来てくれたのかと思ったよ。でも今回奇跡を起こしてくれたのは流奈ちゃんだった」
言ってからちょっとクサかったかな、と恥ずかしくなった。
「先生、どうして来れなかったんですか?」
これまで口にしていなかったが、やはり気になってはいたようだ
「朝から聞こうと思ってたんですけど、水木さんすごいしんどそうだったので…」
もはやどっちが年上だか分からない。まさか二ヶ月足らずでこうなるとは。それはともかくどう話そうか。
あの日、先生と俺は、代々木上原のバーで一時間くらい話した。とは言ってもそんなにすごく大事なことを話したというわけでもない。先生は少し自分のことを話してくれた。京都の大学を卒業した後、二年くらい間くらい銀行で働いていたそうだ。「入社して二年目に大きな金融危機がありまして」自分たちに投資運用任せてくれていた会社が次々と経営が悪化していくのをみて、自分はいったい何をやっているんだろうと疑問に思って会社をやめたそうである。その金融危機とは例の九鬼氏がコンサルに不審感を持つようになったのと同じものである。
「でもそれまで感覚が麻痺してまして。自分たちが利益を得られれば、別に顧客のことはどうでもいいとすら思っていました。想像力がなかったんですよ。金融危機が起こった当初も最初はそのスタンスは変わりませんでした。しかし、ある取引のある企業が経営破綻して、経営者が自殺してしまって。それでようやく目が覚めました」
「ろくでもない人間です」と自嘲して続けた。「うちは親が自営業でして、高校生の時に経営状況が苦しくなったんですよ。今でも覚えています。それまで親切だった銀行の人たちが手のひらを返すように引いていったのを。だからそういう人たちの苦しみをなんとかしたいと思って銀行に入ったのに、これですからね」
俺は何も言えなかった。
「自分の人でなしっぷりはこれくらいにしますが、そんな私が出雲に行ったら、弱者に味方するというオオクニヌシの気分を害するかも知れません。そうしたらうまくいくものもいかなくなる。だから今回はあなたたちだけで行ってください」
んー、ちょっと考えすぎではないか。それに今はただの研究者ではないか。いや「ただの」ではない。ちょっと並外れて行動力がある研究者。だけど翻意する気はなさそうだった。もしかしたら、身の上話は建前で、本当は先生の気分の問題なのかも知れない。自分が手助けするのはここまで、とはじめから線を引いたのかも知れない。あるいはもしかしたら、すごく寂しいけれど、謎が解明され好奇心が満たされたから、俺たちから心が離れてしまったのかも知れない。
俺には理解できないだけで、先生には先生の考えや価値観がある。だとしたら俺はそれを尊重してあげたい。これまで協力してくれたことへの感謝を込めて。先生がいなければ、どう考えてもここまで辿り着くことはできなかった。たとえ好奇心や気まぐれから協力を申し出てくれただけだったとしても、貸借対照表で言えば、俺は借りばかり溜まっている状態である。無理を通すことなんてできない。
「分かりました、独り立ちしてきます」
「きっと大丈夫ですよ」
えらく自信ありげだった。
そうですかねえ。
「へえ、めっちゃ信頼されてるじゃないですか」
「信頼じゃなくて、いい加減独り立ちしろ、ってことだと思ったよ」
「わ、優しい顔して意外と厳しいとこあったりして」
と意地悪く笑いあった。
「でも、水木さん本当にツイてないですよね」
「ん?」
「だって、言ってみれば事故みたいなものでしょ。都会から来て、神社で悪態つく人なんてものすごくたくさんいるはずなのに、その中の一人に選ばれちゃったんだから。ある意味すごい確率ですよ。運がなさすぎる。」
この件だけに関してはまったくその通りだし、この間まで俺も「なんで俺が」と自分の運の悪さを嘆くだけだった。でももっと広い視点でみて、運が悪いと言えるだろうか。
これまで自分も家族も大きな不幸に会うことなく過ごしてきた。そりゃ嫌なことは多々あったが、リーマンショックとか東日本大震災といった大事件で不幸に巻き込まれている人がたくさんいるはずなのに、直接的な被害は一切受けずに、ここまで二十四年生きて来られた。時々思う。もしかしたら、誰かが自分の代わりに不幸を引き受けてくれたから、自分が安定した生活を送れているんじゃないか。そのことに感謝こそすれ、想像力のないことを神社で言えば罰があたってもおかしくはない気がする。それに今回の一連の件だって、最初から最後まで誰かに助けてもらったのだ。俺はこのままこうやって、のらりくらりとこの先も生きていくんだろうか。
でもそんなことは今この場で言うことではないと思ったので、口に出しては違うことを言った。
「まあ運が悪いだけじゃないよ。おかげで普通に生活しているだけだったら絶対会えないような人たちと会えたし。楽しい思い出もできたしね。そういや桃、しばらく会ってないけど元気?」
「はい!最近お姉ちゃんがあれだから、私が散歩連れて行ってるんですよ。お父さんもお母さんもペットに無関心なんだから。機会があればお散歩中、会いにきてください」
それは素敵なアイディアだ。
出雲そばを食べて薬を飲んでゆっくりしたら、少し元気になってきた。俺は去年来た時に見た島根県立古代出雲歴史博物館というとても長い名前の博物館がすこぶる面白かったことを思い出し、行ってみないかと誘った。
「そこ行きたいと思っていました」
流奈ちゃんは楽しそうだ。伊勢で流奈ちゃんを最初に見たのが、ほんの一ヶ月半前。その時の世の中に背を向けていた少女はもうどこにもいないみたいだ。
先生との会話の続き。
「分かりました、独り立ちしてきます」
「きっと大丈夫ですよ」
えらく自信ありげだった。
そうですかね。
「自信持って!あと流奈さんもいますしね」
「流奈ちゃん?いやいや、むしろ不安しかないですよ。いきなり鏡忘れた!とか言わないか心配です。あと、だるくて歩けない、とかね。朝早いし」
先生はやや呆れたように言った。
「伊勢でもそんなことはなかったでしょ」
「確かに。ちょっと言い過ぎました」
「水木くんは気づいてないかも知れないですが、あの子は責任を感じているんですよ。そもそも自分が最初に鏡を持ち出さなければ、こんなに遅くなる前に解決できたんじゃないかって。さっきの店で水木くんが席を外している時にそう言っていましたよ。だから自分がなんとかしないとって思ってるんでしょう」
そう言われると、俺も神妙になるしかない。
「それに…あのサコッシュの中に入っていたのは…」
先生は面白がるように笑っていた。
「水木くん、もしかしたらあの子、君より頼りになってしまうかも知れませんよ」
「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。気持ちは汲みますけどね。桃ならともかく、高校生ですよ。そんなことありえない」
………俺はあの時の自分を殴ってやりたい。
出雲の後日談。
東京に無事戻り、流奈ちゃんと分かれ、家についたのは十時過ぎ。その夜は泥のように眠った。翌朝会社に行けるか不安だったが、目覚めると疲れは残っているものの、気分的にはすこぶる快適で、なんとか出社できた。さらにその翌日になると、疲れも抜けて、悩まされていた倦怠感もなくなった。
流奈ちゃんとは、当日の夜、無事家に着いたことを確認した他、二日後くらいに一度電話いで話した。俺の体調を心配してくれたので、良くなったことも伝えた。もしかしたら、あの日の朝の急な発熱も呪いに関係する何かによるものだったのかもしれない。何か、としか言いようがないが。流奈ちゃんは、例の神社の宮司に一応報告したらしい。
「お姉ちゃんに伝えてもらおうと思ってたんですけど、巫女さんのアルバイトもう全く入っていないらしいので」
鏡の件以降、宮司への信頼が微妙に揺らいでいるそうだが、経緯を話してしまった以上、報告するべきだと思ったらしい。律儀だ。それに結果的にもらった神札とか陰陽道の呪文書がなかったらと想像するとゾッとする。宮司からは再度、俺のお祓いを無料でやってくれると言われたそうだ。あの宮司は人間的には謎が多くてイマイチ信用できないのだが、やってもらえば効果はありそうな気がしたので、前向きに考えることにした。
光ちゃんは、無事終わったよ、と伝えたら「良かった!」と喜んでくれたが、それで終わりであった。あの恐ろしい蛇のくだりを話さずに済んだのは良かったが、もう少し興味持ってくれても良さそうなものである。神器を手放しても、生活や態度が元に戻る様子はないらしい。やはり神器とはそれとは無関係なのかも知れない。流奈ちゃんも変われば光ちゃんも変わる。全然不思議なことじゃない。少し寂しいだけ。
「でも、お姉ちゃん、確かに見た目とか雰囲気は変わったけど、そんなに変わった感じはしないんですよね。もともと結構ミーハーでだらしないところありますよ。大人受け良い分、したたかとこありますし。元彼との話聞きます?」
うう、イメージ壊したくないから、あんまり聞きたくない。
俺は、謎の後遺症が一つある。左の前腕にうっすらと蛇のような痣がついてしまった。蛇が苦手な俺にはちょっと気持ち悪い。(今回の一件で、苦手に拍車がかかってしまった)しかし一ヶ月経っても体調にはまったく影響なかったし、次第に気にならなくなっていった。もし今度、桃にあったら聞いてみよう。なんだかしばらく会っていない気がする。会いたくなってしまった。
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