第一話

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 プラ容器を片付け、洗濯物を畳み終わり、明日の準備も全て済ませたところで、お風呂が沸いたことを知らせる軽快な音楽が鳴った。ナイスタイミング。今日はさっさと寝てしまおう……。昼間は子どもたちの元気に当てられて、そこまで疲労を感じなかったが、家に帰ってきてから思い出したようにどっと身体を襲ってきた。  しかし、それは湯船に浸かっている時に思い出してしまった。  「あっ、お店にスマホ忘れた……」  そうか。今日は忙しすぎて昼休憩も満足に取れなかった。そのため存在が薄れつつあって、すっかり記憶から飛んでいたのだ。たしかバックヤードの机に置きっぱなしにしていた気がする。  「う~~~………ぷくぷくぷくぷく………」  ぶっちゃけ言うと、なくても正直なんとかなる。ただ、5分刻みのアラームの力を借りずに自力で起きなければならないだけだ。これは朝に弱い朱音にとっては非常に難しいミッションだ。さらに明日は朝一で朱音指名の予約が入っている。  絶対にあってはならないが、アラームなしに自力で起きられず遅刻した場合……のことなど考えたくない。そもそも桐ヶ谷(きりがや)の朝の弱さに不満を抱くのであれば、そんなこと絶対にあってはならない。  「戻るかぁ……」  幸い、スペアキーは富貴(ふき)さんから預かっている。お風呂の湯沸かし器についているデジタル時計は23:15。さっさ行って戻ってくれば日付が変わる頃にはベッドに入れるだろう。  「でも、もうちょっとあったまろ……」  朱音は立ち上がりかけた身体を再び湯船に沈めた。
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