第一話

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 ◇◇◇  濡れた髪を辛うじてバスタオルで拭き、スペアキーをポケットに滑り込ませた時には日付が変わる5分前だった。部屋着の上にコートを羽織って外に出る。  そして12分と30秒後……  「あれ……?まだオーナーいるの……?」  それはいくら何でもおかしいだろう。朱音は立ち尽くしてしまった。  何故なら店のシャッターが開き、電気がこうこうとついているからだ。  嫌な想像が過ぎった。荒らされた店内と壊されたレジスター。警察に連絡しようかと迷ってポケットに手を突っ込んだが、スマホは店の中にあることを思い出させるだけだった。閑静な住宅街には人っ子一人いない。駅前まで走れば交番はあるが……。  早とちりでもいけないので、窓ガラスの隙間からこっそり中を窺ってみることにした。建物の壁にへばりつくと、姿勢を低くして一つ深呼吸。そこに金目のものなんて私が知る限りありませんよーーー、ただでさえ我々の薄給をさらに薄くさせないでくださいよーーー、と冗談を心の中で言い続けながら、心臓はバクバクと早鐘を打つ。どうしよう、富貴さんになんて言おう、と自分が悪い訳でもないのに言い訳を考えてしまう。  意を決して中を覗くと……
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