23人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇
濡れた髪を辛うじてバスタオルで拭き、スペアキーをポケットに滑り込ませた時には日付が変わる5分前だった。部屋着の上にコートを羽織って外に出る。
そして12分と30秒後……
「あれ……?まだオーナーいるの……?」
それはいくら何でもおかしいだろう。朱音は立ち尽くしてしまった。
何故なら店のシャッターが開き、電気がこうこうとついているからだ。
嫌な想像が過ぎった。荒らされた店内と壊されたレジスター。警察に連絡しようかと迷ってポケットに手を突っ込んだが、スマホは店の中にあることを思い出させるだけだった。閑静な住宅街には人っ子一人いない。駅前まで走れば交番はあるが……。
早とちりでもいけないので、窓ガラスの隙間からこっそり中を窺ってみることにした。建物の壁にへばりつくと、姿勢を低くして一つ深呼吸。そこに金目のものなんて私が知る限りありませんよーーー、ただでさえ我々の薄給をさらに薄くさせないでくださいよーーー、と冗談を心の中で言い続けながら、心臓はバクバクと早鐘を打つ。どうしよう、富貴さんになんて言おう、と自分が悪い訳でもないのに言い訳を考えてしまう。
意を決して中を覗くと……
最初のコメントを投稿しよう!