終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   タレントとしての仕事をこなし、遅れてバンクーバー入りしたタイチをアパートで出迎える。学業優先生活だったから、タイチがここで過ごすのはほぼ一年ぶりだ。 「お帰りハニー♡」 「ただいま。玄関でムシュー・グレンに捕まってた」 「フランス語忘れてなかったかー?」 「若干アヤシイけどどうにか意思疎通は出来た! ……と思う。てか、バンクーバーが雨季って忘れてた!」  両掌でぴとっと触れた頬は冷たい。気温が低いうえ、雨までシトシト降れば相当冷え込む。山は一面の雪景色で来週のERAカップも寒さは厳しいだろう。  だがしかし、その厳しい寒さの中でこそ俺たちは輝けるのだ。冬の申し子なのだ。 「お風呂入ろっか」 「うん! あーいい匂い」 「西川くんちからお裾分けして貰ったー♡」 「へえ!」  ニコルは俺やタイチがいると少々遠慮がちになるから、ディナーをご一緒するのは辞退した。本宅での家族水入らずを満喫して貰いたいところだ。  スタッフや雄星達は西川くんのパーソナルジム、元FH本社で宿泊。明後日にはEX組、ERA組に分かれ半数以上がモントリオール入りだ。バタバタと忙しいけれど、今シーズンもとても充実している。 「あ〜〜〜……いいお湯……」 「メシ食ったら早く寝ろ。時差ボケには睡眠とるのが一番だ」 「うん……なんかもう眠い」  なんだとう……?  ムーディーなバスルームの猫脚バスタブで俺様の裸体を腕に包んでいながら眠気に襲われるとはどーゆー了見だオイ。いやだがしかし、ここでスイッチがオンになってもひたすら厄介だ。寝た子を起こすのは得策じゃない。 「先にひと眠りするか?」 「折角のご馳走だから食べる……」 「ヨシヨシ、今日は特別に俺様がサーブしてやろう」  普段は甘やかされまくりの俺だが、甘やかすのだって大好きだ。柔らかい猫っ毛の黒髪をワシワシとシャンプーし背中を流し、デカい体を拭き上げるのだって大好きだ。  ああ、俺のタイチ……♡  リラックスして緩んだ腹筋さえも逞しく頼り甲斐がある……♡  頬ずりしたくなるくらいにスキ……♡
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