終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   ふと焦点が合うとスノーブーツの爪先……  顔を上げるとロジャーが居た。 「びっくりした! ビッグエアの会場にいたんじゃないの!」 「ハリーがクロードについててあげてって。要は自分がやりにくいから追い出されたんだ」 「おやまあ」  イヤホンを外し立ち上がった俺をロジャーはぎゅうううっと抱きしめた。こらこらあんまり負荷を掛けないでー!  背中をタップすると、離れたロジャーは目がウルウルで鼻水が……… 「ティッシュ」 「ぅぅぅ……シュウ、早過ぎるよ……僕が退いてまだ4シーズンなのに……」 「そこはロジャーがなかなか譲ってくれなかったのが悪い。ってかよく頑張った方じゃない? 平昌を乗り越えただけでも褒めて欲しいくらいだ」 「我がEX最大の華が〜〜〜っ!」  華。  ロジャーが持たせてくれたのは……大きな大きな、きっと大輪の華だ。 「EX'21のメダルはロジャーに捧げるから」 「’22には出場しないって事……!?」 「北京に全振り♡」 「そんな……そんなの嫌だあああ……うっうっうっ……」 「長野の時十才だった俺と十五才のロジャーに、今の俺がきっと……最初で最後に贈れるプレゼントだから。何色だったとしても受け取って」  途端にぴたっと泣き止んだロジャーはまたぎゅっとハグしてくれて。 「終わったら二十三年前の僕らに乾杯しよう」って鼻をスンスンしながらいっぱいキスをくれた。  つくづくビッグエアの会場が離れてて助かったぜ。たいちゃんが盛大に拗ねちゃうところだったわ。 「柊!アップの順番そろそろだから上がるぞー、……ロジャー、ボロボロじゃん」 「だってアキ! シュウが僕を泣かすんだ!」 「あ〜〜……うんうん、でもここ関係者以外立ち入り禁止だから」 「ヨーコが入れてくれたんだ!」 「うんうん、でももうタイムリミット。はい退出〜〜」  ロジャーにヒラヒラと手を振っていると、テントの幕の向こうにカメラを担いだ男性が見えた。んんん!? 「あ、なんかさっき天羽さんがいい画が撮れたって嬉しそうだったよ」 「!!」  西川くん! 隠し撮りはなるべくしないって言ってたくせに!
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