終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   スタートエリアでは若いのからベテランから、たくさんのライダー達に握手やらハグやらキスやらを貰った。やれやれ。まだあと一年以上あるってのに。いやそもそも俺はまだ引退までは明言してないのにみんなして……  でも、これが普通の反応だな。俺自身も解っている。  北京でやり切ったあと、自チームカップ戦のタイミングで完全引退が一番綺麗な競技人生の仕舞い方だって。  …………ふう。  FHのテントは今日も必要最小限、コンパクトなサポートメンバーだ。みんなあちこち散らばって忙しい忙しい。  さあ、もう飛ぶ事に集中だ。   「竜頭の方向はあっちー」 「ああ、そんな感じだな。柊が怪我なく飛べますように」 「小椋さん、もうすっかり村人だよねー」 「嫁さんも息子も碓氷っ子だからなー」 「ふふ」 「それに俺も碓氷村が大好きだよ。連れてってくれてありがとうな」  手渡された蒼い板。俺の(ラピス)。これが生身の俺に与えられたたった一つの、そして最強の武器。  体が、筋肉が煩くなる。  飛びたい、飛びたい、あの灰色の空を切り裂いて回って。  タイチ、お前でさえ追いつけないくらいに高く高く飛んでみせるって───── 「柊さん速報来ました! ビッグエア、太一くんが優勝です! 今季早くも二勝目!」 「……フハハッ」  すまん、クロードもみんなも。  みんながこれからのスノーボード界を支える、俺の、ロジャーの後継者だって事は間違いないけれど、俺の可愛い怪物(モンスター)・碓氷太一は今季もキレッキレだわ。  だからこそ俺は負けない。
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