終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   ドロップインすればあとは飛ぶしかない。回るしかない。  命懸けだろうがギリギリまで踏ん張って。  最高のパフォーマンスで決め切る─────それが俺の仕事。 「予選を100点満点で通過するとか他のライダーのこと考えろ」 「え〜〜知らんわそんなん。あ、でもクロード。あいつ明日1440-1440飛ぶぞ」 「え」 「今日は余力残してる感じだったからなー。見せ場作ってくれそうだわー」  タイチはむっとした表情で目線を逸らす。 「なんか……ちょっと悔しい。なんでハーフパイプとビッグエア、日程離してくれんのか」 「ふふん。カッパーマウンテンは日本勢で表彰台独占するかもなー」  ビッグエアで手にした金色のメダルを首に掛けてやると、タイチは拗ねた口もとのままでちゅっとキスしてくる。可愛いヤツだ。ヨ〜シヨシヨシ。柔らかい黒髪の感触が最高に気持ちいいわー。  腰に回された腕が力強くて安心する。今日も無事に俺の元へ帰って来てくれた事にホッとする。 「雄大とワンツーか。雄星が地団駄踏んでたんじゃね?」 「雄星よりハリーが凄かった。EXでやり返すって」 「モン・トランブランは竜の背組と相性がいいからな。お前も気を抜くなよ」 「気を抜いてるヒマなんかないっちゃ……」  ぎゅっと絡めた指に嵌った指環がひんやりと冷たい。  ケベックシティのホーリートリニティ教会で贈ったこの指環をタイチは肌身離さず身につけてくれているけど、どんなに手入れしても経年劣化は否めない。 「来年は新調しようか、結婚指輪」 「え〜〜」 「カールのとこなんて毎年結婚記念日に新しい指輪にするんだってさー。イヤープレートみたいに何年って刻印して」 「ん〜〜」  西川くんと東海林さんの真似をして誕生日プレゼントは毎年同じものを贈り合おうと(張り切って)提案して来たタイチだが、毎年結婚指輪を新調する案にはあまり前向きじゃないらしい。  その辺りの基準が今ひとつ謎ではあるが、取り敢えずタイチにとってこの指輪は特別なんだろう。 「柊が毎年新しいの欲しいなら毎年頑張って作ってみるけど」 「ふ」
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