終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   二十九才の誕生日にタイチがこの金の指環を贈ってくれてからもう四年だ。  あの頃の俺は初めてとも言える本気の恋に右往左往してばかりだった。  日を増すごと、体を重ねるごとに愛しさが募って自分が自分じゃないようで。  でもタイチは何も変わらない。あの頃と少しも変わらずに俺を愛してくれる。真っ直ぐに俺だけを見つめてくれる。幸せだ。 「やっぱモノはいっかあ」 「情緒不安定か」 「おう、俺の情緒はお前の前ではいっつも、いつまで経っても不安定だわ」  ソファに座ったタイチの足の間にぐいぐいと腰を下ろすと、長い腕が背中から俺を包み込む。デッカい手に俺様の白魚のような手を重ねると、髪にキスが降ってくる。ついでに鼻息も荒くなる。 「腰になんか当たってるぞー」 「自然現象っちゃ」 「悪いが明日があるから相手してやれんわ」 「わかってる……呼吸法で乗り切る……」 「ヨシ、じゃあ寝る前にヨガタイムするかー」 「ん……でももうちょっとだけ……」  俺が飛ぶ時、タイチはいつも不安なんだ。俺も同じだ。  怪我せず無事に、生きて自分の元に帰って来てくれと祈らずにはいられない。  でも、それでも、互いが一番輝けるのが極限(エクストリーム)の中だけだって言うことも─────俺たちは知っている。 「……to fly high up in the sky.」 「うん、柊のチームは世界で一番カッコいい」 「タイチがそう言ってくれるの嬉しい」 「ハーフパイプ絶対王者のチームっちゃ」 「え〜〜お前が俺を引き摺り下ろしてくれるんだろー?」 「うん。俺が抜いても、柊のチームは王者のチームって事っちゃ」  振り向いた拍子にかち合ったタイチの瞳に迷いはない。タイチは本気で俺を仕留めに来る。  上等だわ。
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