終章 ── 流れ進むのはわれわれであって時ではない

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   ERAオープン’20 スノーボードフリースタイルハーフパイプ競技決勝当日。  北米に於けるウィンタースポーツのメッカ、ウィスラー・ブラッコム山の斜面に広がるパークは好天に恵まれた。 「やっぱ柊さん晴れ男っすねー」 「あっ……瀬戸くん、膝裏は優し〜くね♡」 「はいはい。…………うん、ちゃんといい筋肉に仕上がってます。今日も決めてください」 「まかセロリー!」 「…………」  流されたか……チッ。  まあいい。俺は今日も絶好調だ。調子が良すぎて回りすぎちゃいそう♡ 「柊、そろそろ上がるぞー」 「はーい! ……才賀さん臭い。会場禁煙だってば」 「まあ……来季までは大目に見ろ」  煙草の匂いが染み付いたグローブをしたままで頭をワシワシされ、ヘルメットを被せられる。スノーモービルの後ろに跨り、俺が頼りにして頼りにして頼りまくりの総監督の背中に頭をくっつける。やっぱり煙草くさいけど……安心する。  あともう少し。もう少しだけこんな俺に付き合わせるけど。終わったらヨーコさんと二人、温泉旅行でもなんでもプレゼントするから許してね。  スタートエリアから臨む晴れた景色は白くて眩しい。一面の銀世界の中にハーフパイプのリップを縁取る青いラインが浮かぶ。ゴールエリア、俺の大切な仲間がそこで待っている。 「思う存分飛んでこい、絶対王者」 「集中お願いします!」
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