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曲、終わっちゃったね、そう寧音が言うと、じゃあ次は、と涼花が考えよどむ。
「ころんちゃん、ミルト・ジャクソン・カルテットの『ムーン・レイ』をかけて」
はい、と画面の中の海坂ころんは微笑んだ。
すぐ涼花のリクエストに応えて、「ムーン・レイ」が流れてきた。
モダン・ジャズ・カルテットのピアニストがジョン・ルイスではなく、ホレス・シルヴァーの黒っぽいピアノなのが印象の好盤ね、涼花はちらっと寧音にささやいた。
携帯電話の画面でも、海坂ころんがその言葉に頷いている。
「で、大谷崎の件ね。たしかに読みづらい箇所もあるけど、あの作品の肝は、なんといっても木村の存在と『ポーラロイド』や『ツワイス・イコン』──ツァイス・ニコンの写真機だと思う」
それに、と涼花はつけ加えた、あんな作品、女子にも読ませるっていうのがうちの学校のすごいところよね。
「わたしはなんだか読んでて変な気持ちになっちゃって……」
「そうよね、ちょっと毒が過ぎるかも。でもね、寧音。──木村の描き方を注意して読んでごらんなさい。あの夫婦のことならなにもかもを知っているという顔をしているけれど、それは読者とイコールなのよ。『読者との共謀』という技法を使っているの」
「読者との共謀、ですか、お姉様」
「これ以上は教えないわよ」そう言って、涼花はいたずらっ子のような表情になる。──寧音の読書感想文じゃなくなっちゃうもの。
教えてください、お姉様……。
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