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毎夜見た夢の中の姿をなぞるように、私は自然と手を伸ばし白い肌に指を這わす。
口の端までたどり着いたところで、私の指は彼の手に留められた。
「あや」
胸がうずく。私の知らない彼を知る、私じゃない私を恨めしく思ってしまった。
伏せられた狐耳を、彼は優しく撫でる。
「前世の記憶があるからって、私はあやじゃな、ありませんっ」
ついつい頬を膨らませて顔を背けてしまった。
「変わらないな、お前は」
忍び笑いが聞こえる。
クロさんは変わらないって言うけれど、私は……。
本当は彼のことを知らずに生きて、知らないまま死ぬはずだった。
だけど。
宙に投げ出された左手に絡む体温を心地よいと思ってしまっていて。
「今生は美代と言ったな」
クロさんの指が金糸にからまり、額に唇が触れる。
「今度こそ、俺のそばにずっといろ」
生暖かい吐息が、耳に落ちる。
「そんな、勝手な」
見上げたクロさんの瞳は悪戯っ子のように輝いていて。
「惚れさせる」
私の体は軽やかに宙を舞い、彼の腕の中に収まった。
いつの間にか3本になっていた私の尻尾が跳ねた。
「幸い、俺たちには腐るほど時間があるからな」
クロは悪戯の成功した子供のように、歯を見せて笑った。
ああ゛完敗だ。
茹で蛸のように頬が上気する。
口をパクパク開けるしか能のない私に麗しいお顔が迫った。
よし、認めよう。こんちくしょう。
私は、何度だってあなたに恋をする。
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