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第1夜 奇
月夜の晩。
「いやいやいやいやいや」
私は、現在居酒屋の立ち並ぶ通りを全力疾走していた。
「一体あれは何?」
ちらりと背後に視線をやれば、そこには、こちらに迫る大きな顔が。
腐ってただれた肌からは、目玉がこぼれ、耳まで避けた口にはサメのように鋭利な歯が並ぶ。
巨大な顔は地上すれすれを浮遊して、大きな口をあけたまま私を追いかけてくるのだ。
「あー、正体を見たいと少しでも思った過去の私のばかあ」
酸欠と恐怖でマヒした脳では、正常な思考などできるわけもなく、わめきながら大通りの真ん中を駆け抜ける。
そもそも、何でこんなことになっているんだっけ。
いつものように、退屈な日常が始まるはずだったのに。
ほんの数時間前の出来事に思いを馳せる。
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