序章

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 対して彼はそんな彼女のことを知りながら意識が遠くへ行った様な空虚な眼差しで、その美しい星空を記憶に焼き付けるでもなく“己の無力”を恨んでいた。その心情を知っているのか知らないのか話しかける。 「それはそうとウォルター、島に降りれますか?」  多くの瞬く星からウォルターを見下ろし聞く、 「ああ…まあ、6歳児くらいの魔力キャパならすぐ貯まるさ」 「6歳でも15分程度はかかりますが…高速で移動した痕跡が無かったですし…まさか…」  彼女は下の島々を見て言う、彼は彼女と同じように人ならざるモノの力を借り飛ぶことができる。しかし、彼女は魔力の消費を抑えれば計算上は数日持つが、彼は3分程度しか飛べない等その差は大人と子供。  つい半年前、この彼、ウォルター=ウォーカーという少年が島一の竜騎士と呼ばれていたとウォルターを知らぬ者は驚くだろう。  衰えたのは魔力キャパシティーで技術は別だ、ウォルターが全速力で飛べば不自然な強風が周辺に吹き荒れるはずだ、アリアはその変化に気づける。 「ま、気にすんな、人生の時間は後100年以上もあるんだしさ」 「………まあいいです…それよりも、こんな場所になぜ来たんですか?」  彼女は何故わざわざ苦労してまで、と理解出来ない風だったとはいえそう言っても静かに、でも子供が何か憧れを見つけ魅入られた時の様に見上げる。  青藍に染まった彼女の瞳を覗いた。彼自身も、静かな喜びに染めて語る。 「ここ数年色々な場所で夜空を見上げて来たけど、ここが一番…いい……綺麗に見えるんだよ」  最後、彼は誰にも聞こえない声で言った。果たしてそれは夜空になのか、彼女になのか、もはや今は亡き彼の言葉の真意を知る由もない。  彼はそう言い、ポツリと呟く。 「竜装解放…」
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