序章

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 目の前に魔法陣が現れ通り過ぎる。  それは通り過ぎるだけで変わった。彼、ウォルターにアリアと同じ様な角が二本、緩やか弧を描き3〜4cm後ろへ曲がったところで止まり黒い目は赤へと変わり、手足もまた、アリアと同じ様になった事だろう。  それでも、アリアとウォルター、違う点が散見される。一つは手足、角の色とアリアは藍色であるがウォルターは赤い。何処かで燻んだその赤色は皮肉にもウォルターの何処か擦り切れ気怠い眼と同じ様であった。  地上へとふたりは向かった。    ・・・  地に着いて思うのはいつもと同じこと「もっと空を飛びたい」だ、けれど今の俺には叶えられない願望。半年も前であれば自由に飛べた、空を駆けている時は悩みや憎悪、それら負の感情から解放されていた。  でも心の何処かには常にあった、母の汚名をそそぐために。復讐を達成するために。人を殺しておきながら、人殺しに対する嫌気や自己嫌悪。それでも仲間と飛ぶことが唯一、心の救いだった。  ーー嬉しかった。  ーー楽しかった。  ーー救われていた。  今は違う。  何のために生きているのか?そう己に問い続ける日々、答えはとてもじゃないが擁護や見過ごせる代物じゃない。心の何処かにある復讐心は俺に対して言っている。  ーー憎い。  ーー恨めしい。  ーー許すな。  復讐をしようとしてること、この感情に対して聞こえる自分への警鐘なのか俺に言う。  ーー母さんは今の俺を許さないだろう。  その一言。そして相反するふたつの俺の心。波のように押しては返して常に揺れている。 「白?いいやお前は黒だ。お前がこれから殺す人、殺した人たちと同じ黒だ」 そんな声がもう一人の俺から聞こえる、けれど、世界から聞こえてくるのは、 「貴方は私達と同じですよ」「お前は(こっち側)だ、(あっち側)じゃねぇ」「ウォルター先輩はあんな奴らとは違います。僕らと同じ(こちら側)です」  そう俺を肯定してくれる声。
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