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生来の性格なのかそれとも10年に及ぶ生活の賜物か、彼はもうこの件についての周りの視線は意識から外れている。そうなってしまえば最後に残るのは早く終われと言う鬱屈した感情のみ。
ウォルターの心情の写し鏡のように雨雲が降らせる雨は勢力の弱いもの。
周りの生徒は彼を不気味に思うのである、真新しいその殴られた跡があるにも関わらず何事も無いように過ごせる心境を。
指摘するタイミングを見失っていた教師は聞き辛そうに問う。
「あー、ウォルター。その顔どうした?」
彼は至って普通の教師、名を「ギン=タイガ」この学園に勤務して10年目くらいになる30代前半にになるが、やさぐれた顔と白髪、着崩れたワイシャツは実年齢より老けて見えるもので、一部生徒からは年齢詐称説まで唱えられる始末。
ウォルターのような生徒には常に気を配る先生で、実はウォルターは気に入られているひとり。その教師は自らの右頬を指しながら聞いてくる。ややあってウォルターは答える。
「友人に酷いこと言って殴られましたが、自業自得なので気にしないでください。自戒の意味もあるので」
「それなら別にいいが。でも保健室行って来い。今すぐ」
お互い興味無さげの気怠く言うので多くの生徒は、それでいいのかと思うのだった。そんな彼ら大半の生徒は振り返り確認した上で、我関せずと、前を向く。
説明責任を果たしたと無言で、ウォルターは立ち上がりノロノロと自宅で過ごすかのように荷物をまとめて、居心地の悪い場所から出て行く。
ギンはその後ろ姿に今の自らのやる気の無さと重ねてしまうのだった。同時に、やさぐれるには早過ぎると。そしてそれが自分にも当てはまることなのだから、苦笑を浮かべずにはいられない。
その顔は、背を向けている生徒達には見えない、ウォルターにも。
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