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第3章:戦う意志と、逃げる意思。
窓から差し込む陽光はグラインダーにより遮断され、室温の上昇を防ぐのは一役買っているが唯一の明かりが半減した部屋は、窓際が明るいくらいで仄かに薄暗い。
ひとりではなおさら広く感じられる保健室は、入って右奥に3つのベッド、その反対にはデスク。
しん、と静まり返る保健室のソファーに、少年がいつもと同じような無気力な顔で待たされていた。待ち惚けを食らっているその表情は暗く、退屈そうであった。
竜騎士育成専門学校では保健室で待機している教員は、医師免許を持っていることが義務付けられている。理由は実習などが危険だから。しかし、医師免許を持つ教員は少なく、それならと防衛隊に入るのだ、あそこなら給料は弾むし人を救えるから。などなど、以上の理由から教員の換えが効かないことが実情だ。
ただ、学校が開いている日は必ず出勤と、その職員の心労などは計り知れるものでもなければ、計ること自体がおこがましいことだろう。
それでも、衛生用品を買いに行くのに20分もアイシングで待たされるこちらの気分にもなって欲しい、と切に思う。長く当てていたことで左頬の感覚が無い、腫れは引いたのだが。
最近の発明で、珍しいポリ袋の中に入れられた氷は全て溶けきっている、残るのは、ほんの少し冷たい水だ。
初夏の頃で魔法で室温を下げているとは言え、摂氏23度。何度も水を魔法で凍らせた所為でほとんど魔力は空っぽ。
何故、衛生用品を買いに行くのに20分もかかるのか。10分もあれば十分行って帰って来れるはず。
それに、この部屋には衛生用品の予備もあるそれを隠して、切れたから買いに行くと見え透いた嘘をつくのか、ギン先生に怪我の度合いを報告に行ったと考えるのが自然。
ガラガラとドアを動かした時に鳴るキャスターの音と、1人の女性が入室して来た。
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