第3章:戦う意志と、逃げる意思。

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 腫れの引いた右頬には軟膏を塗った綺麗な白布を固定するポアテープ、腫れを治療した女医、「ロザ=カナセ」ウォルターへ向けて微笑んだ、それはいつも心の奥底を見透かせない彼女とは違い、心からの安堵が見えていた。  逆光で見に辛いが、この女医の微笑みと言うのは柔らかくなぜか心が安らぐ笑みであった。  そんな彼女はふと、いつもの何も見透かせないような顔へと戻る、 「どうぞー」  彼女も保健室に入ろうとする生徒に今気が付いたのだろう、ドアの方向を見やり言った。  それでもドアの向こうの人は元気のあるノックが響かせ、次にはドアが開いて落ち着かない様子で答える。 「カナセ先生、持って来ましたけど…大丈夫ですか?って…」 「うん、大丈夫よ。それをここに持って来てくれる?」  喉に魚の小骨刺さったような違和感を感じた彼女は、誰なのか少し黙考した。  少しするとウォルターの後ろ姿を見て誰なのか思い出して、素っ頓狂な叫びを口にする。 「ああぁあ!!?君は!」  耳に響くような高い声が決して高過ぎない絶叫を聞き、一瞬あらゆる意味で頭が痛くなった、しかし彼女方へ振り向き吐き捨てるかの如く呟く。 「俺で悪いか…?俺だって怪我の一つや二つするんだよ」  ソファーに座らされるウォルターとしては、なぜ保健室にいるだけで叫ばれなくてはならないのか、それが疑問だった。理由はなんとなく察せられるが。  今度は茶色の紙袋だった、それをウォルターの目の前に優しく置いた。  ムッとした顔で、ウォルターを()め付けながらでなければ完璧だったろう。しかしそれは僅かな時間だった、今や彼女の興味は例の紙袋に向いていた。 「アンネちゃん、君この袋の中身が知りたそうだね?」  既にウォルターの存在などなかったかのように話が始まり、アンネはすぐに首肯する、 「これはね、そこの愚かで浅ましい少年に対してのプレゼント、わ・た・し、個人のね」  妖しい笑みを浮かべて、カナセは言った。
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