序章

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序章

1997年6月29日22:54時  夜の空、それは星や月を想像するものだ。千切れ疎らとなった空、切れ間から覗く月は藍色染まっている。  理由はどれも御伽噺(おとぎばなし)で学術的な面において、納得できるものではないが。それを除いても見る分には綺麗だ。 (下を見れば街が見えて、そして上を見れば星に月。我ながら良い場所を見つけたもんだ、また来よう)  少年は物憂げに空を眺めながらふと、そんな事を考えていた。ここは上空4000mもの位置にある天空島、そのさらに約400m上にある月明かりのみ届く直径7m程度の小さな浮島。 しかし意外に暗くはない、すると大きな猛禽類の羽音が近づく、“それ”について知っている彼は物憂げな顔から気怠そうな顔に変わったが、彼女を待つ事にした。  特に逃げることでもないしな、と思うが何かが爆発した感じの癖っ毛に自然と手は後頭部へと向かい掻いていた。  意外にも整った顔は真面目な表情を作ればクール系の美形(世に言うイケメン)であるのに何時の間にか彼の真面目さは擦り切れてしまった様でこんな風になってしまった。  突然、浮島の下から人、しかも10代の少女が昇って来た、いや、飛んで来たと言う方が適当だろう。  彼女は彼が座る横に寄り添う形で座り、身長差があり彼を見上げる構図で上目遣いと呼ばれるものだ。  その彼女は月明かりで照らされの顔は整っており十分に美形と言える、綺麗に眉のあたりまで切り揃えた前髪、髪型はツーサイドアップで肩を少し過ぎるあたりまで伸びていて左右に作ったおさげと可愛らしい。彼の記憶では美しい青藍色の眼は黒になっていた。  大人っぽさはあるが、未だ幼さを残した顔に、一般的には健康美の範疇のボディーライン、そこまでは優美な見た目の少女だ。  それでもどこかに違和感があった、ではどこにあるのか、彼女の頭には側頭部から二本の暗い紫の角が後ろに曲線を描いてしている。  手足は鱗があり、人のモノではなく人外と認識出来る、魚のような丸く小さい鱗ではなく一枚一枚が魚より大きく、円を描くでもなく剣先のように山を描いた。  その羽音の正体である少女は、彼に最大限の敬意、信頼、親愛を向けて優しく話しかける。 「ここに居たんですか、探しましたよ?」 「ああ、悪かったな…」  口でそう言っていても込められるべきである謝意は余り含まれてはいない。しかし彼女は咎めたりする気配も無くただ優しく、慈しみの眼差しを向けるだけである。
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