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「永遠、何か飲む?」
「ん……飲む」
「何がいい?」
「カプチーノ」
「カプチーノ!? あったかなぁ」
笑いながら、浬がキッチンの戸棚を開ける。
布団の中は籠もった湿気と、事後の空気と。
懐かしい浬の匂い。
胸いっぱいに吸い込んで吐き出す。
今更襲ってくる気恥ずかしさに、顔を枕に埋めた。
ふと、指先が枕の側に置かれていた硬い何かにあたる。
「んー……本、か。また難しそうな本……」
勉強なのか、趣味なのか、内容は相変わらず植物の遺伝子がどうたらこうたら。全く理解出来そうに無いページを何の気なしに捲ると、栞代わりに挟んでいたのか、何かがヒラリと落ちた。
「あ……」
しまった、と拾いあげて、息を止めた。
「はい、お待たせ……って、何見つけてんの」
カプチーノが入ったマグカップを俺に差し出しながら、浬がきょとんとした顔を向けた。
「俺……これがいいな」
本の間から落ちてきたのは、一枚のポラロイド写真。フォトパネルと同じ、サンカヨウを撮影したものだった。
色味も画質も、フォトパネルよりも粗くて……だけど────
「え、それ、だって……ポラで撮ったやつ」
「いいんだよ。これ、俺に頂戴」
見上げた浬の顔が、柔らかく綻ぶ。
「いいよ。けど……引くだろ?」
気まずそうに浬がカプチーノを飲み込む。
「……引いた……死ぬほど嬉しくて」
熱くなった顔を隠すように、俺も俯いてカップに口をつけた。
「それ、褒め言葉?」
「そう。最大級の」
「じゃあ、永遠は?」
覗き込んできた浬の目が優しく笑う。
伸ばした手でシャツを引っ張ると、一呼吸分のキスをした。
「俺も……死にそうなくらい、会いたかった」
「はは、両思い」
「ん、遠回りの」
「俺のこと好き?」
「……好き」
「っ、素直」
「今日だけ」
「明日は?」
「どうだろ……」
「永遠」
「ん?」
「好き」
「……うん」
「照れてやんの」
「ばか」
「今日、泊まってけば?」
「うん」
「死にそうなくらい、あなたに会いたい」
fin
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