♯1 ビター リグレット

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4限の講義を終えて2号館を出たところで、足を止めた。声が出そうで、咄嗟に息を飲み込む。 構内道路を隔てた先にある駐車場に併設された公園のベンチ。そこに座っていたのは浬だった。 なんでいるんだよ…… 農学部と経済学部のエリアはゆうに500メートルは離れている。偶然ここにいるとも思えない。経済学部の誰かと会う予定なのかもしれない。 いつも使っている西門は公園の前を横切る必要があるので、仕方なく東門に向かって足早に歩を進める。 早く、帰って眠りたい。 早く、今日のことを忘れたい。 早く、 「あのさっ!」 肩を掴まれて、体が強引に引き戻される。 その声に心臓が震える。 「あ、あ……何か用だった?」 振り返ったすぐ目の前で、浬が眉を顰めていた。 「何か用じゃなくて、永遠に会うために待ってた。やっぱり、俺避けられてる?」 バツが悪くて逸らした視線の先で、アスファルトに落ちた紅葉の赤が、やたら毒々しく見えた。 「別に……」 「高校の志望校だってそうだろ? 突然変えるし、その後、連絡も全然取れなくなるし」 肩を掴んだ浬の手が、するりと腕に落ちて。 それだけで、呆気なく脈が早まる。 意識するな。考えるな。 浬は俺とは違う。 「別に……避けてたわけじゃないし、志望校だって塾の先生に薦められて」 避けてたよ。 二度と会いたくないと思ってた。 浬を忘れるために、どれだけの事をしてきたと思ってるんだ。どれだけの人を傷つけてしまったと思ってるんだ。 今更、親友の顔をして、元どおりの関係に戻れるわけがないし、戻りたいとも思わない。
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