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4限の講義を終えて2号館を出たところで、足を止めた。声が出そうで、咄嗟に息を飲み込む。
構内道路を隔てた先にある駐車場に併設された公園のベンチ。そこに座っていたのは浬だった。
なんでいるんだよ……
農学部と経済学部のエリアはゆうに500メートルは離れている。偶然ここにいるとも思えない。経済学部の誰かと会う予定なのかもしれない。
いつも使っている西門は公園の前を横切る必要があるので、仕方なく東門に向かって足早に歩を進める。
早く、帰って眠りたい。
早く、今日のことを忘れたい。
早く、
「あのさっ!」
肩を掴まれて、体が強引に引き戻される。
その声に心臓が震える。
「あ、あ……何か用だった?」
振り返ったすぐ目の前で、浬が眉を顰めていた。
「何か用じゃなくて、永遠に会うために待ってた。やっぱり、俺避けられてる?」
バツが悪くて逸らした視線の先で、アスファルトに落ちた紅葉の赤が、やたら毒々しく見えた。
「別に……」
「高校の志望校だってそうだろ? 突然変えるし、その後、連絡も全然取れなくなるし」
肩を掴んだ浬の手が、するりと腕に落ちて。
それだけで、呆気なく脈が早まる。
意識するな。考えるな。
浬は俺とは違う。
「別に……避けてたわけじゃないし、志望校だって塾の先生に薦められて」
避けてたよ。
二度と会いたくないと思ってた。
浬を忘れるために、どれだけの事をしてきたと思ってるんだ。どれだけの人を傷つけてしまったと思ってるんだ。
今更、親友の顔をして、元どおりの関係に戻れるわけがないし、戻りたいとも思わない。
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