♯1 ビター リグレット

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「じゃあ、避けてたんじゃないなら、俺に言えない何かがあるってこと? 中学の時は毎日一緒にいて、高校に入った途端、音信不通になるとか変だろ?」 頼むから、もうこれ以上、俺の中に踏み込んでくるな。 「ほんと、そんなんじゃないって!」 浬の手から強引に腕を引き剥がし、踵を返す。 逃げるように歩き出した俺の横を、追いかけるように浬がついてくる。 顔が熱くて、拳を握りしめる。 「永遠ってさ、顔に似合わず頑固だよな」 「っ、それどういう!」 反射的に浬の顔を見て、後悔した。 「もうちょっと素直だと、可愛いのにって意味」 やっぱり。好きだと思った。 この優しい笑顔も声も、俺だけのものなら良かったのに。 「浬のその言い方……昔から変わんないな」 「ん?」 ため息を吐き出し、歩いていた速度を落とす。 肌寒い風が、熱を帯びた頬を滑る。 「なんでもかんでも可愛いって言うところ。中学の時、植物園でグロテスクな食虫植物見た時も、可愛いってはしゃいでた」 「そうだったかなあ? まあ、植物は等しく全てが可愛いよ」 「はは、だろうな」 「で、さっきの話、まさかはぐらかせると思ってないよな?」 浬の口元が意地悪く歪んで、図星だった俺は言葉に詰まる。 「う……」 「永遠、今日この後予定とかある?」 「いや……特には」 「じゃあ、ちょっと俺んち付き合って。永遠に渡せてないものがあったんだよ。その後ゆっくり話したい」 言いながら微笑む浬の横顔は、昔の面影を色濃く残していて、まるであの頃に戻ったみたいだった。 「俺に……渡したいもの?」 「そう、中学の時に、渡しそびれたもの」 ただ純粋に。 ずっとそばにいられるのだと、信じてやまなかったあの頃に。
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