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「じゃあ、避けてたんじゃないなら、俺に言えない何かがあるってこと? 中学の時は毎日一緒にいて、高校に入った途端、音信不通になるとか変だろ?」
頼むから、もうこれ以上、俺の中に踏み込んでくるな。
「ほんと、そんなんじゃないって!」
浬の手から強引に腕を引き剥がし、踵を返す。
逃げるように歩き出した俺の横を、追いかけるように浬がついてくる。
顔が熱くて、拳を握りしめる。
「永遠ってさ、顔に似合わず頑固だよな」
「っ、それどういう!」
反射的に浬の顔を見て、後悔した。
「もうちょっと素直だと、可愛いのにって意味」
やっぱり。好きだと思った。
この優しい笑顔も声も、俺だけのものなら良かったのに。
「浬のその言い方……昔から変わんないな」
「ん?」
ため息を吐き出し、歩いていた速度を落とす。
肌寒い風が、熱を帯びた頬を滑る。
「なんでもかんでも可愛いって言うところ。中学の時、植物園でグロテスクな食虫植物見た時も、可愛いってはしゃいでた」
「そうだったかなあ? まあ、植物は等しく全てが可愛いよ」
「はは、だろうな」
「で、さっきの話、まさかはぐらかせると思ってないよな?」
浬の口元が意地悪く歪んで、図星だった俺は言葉に詰まる。
「う……」
「永遠、今日この後予定とかある?」
「いや……特には」
「じゃあ、ちょっと俺んち付き合って。永遠に渡せてないものがあったんだよ。その後ゆっくり話したい」
言いながら微笑む浬の横顔は、昔の面影を色濃く残していて、まるであの頃に戻ったみたいだった。
「俺に……渡したいもの?」
「そう、中学の時に、渡しそびれたもの」
ただ純粋に。
ずっとそばにいられるのだと、信じてやまなかったあの頃に。
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