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分かってた。
分かってたはずなのに、
「……っ」
涙がボロボロと頬を転がり落ちる。
「でも、女の子とキスだけは出来なかった。そういう雰囲気になって、俺も男だからセックスはするけど、キスだけは気持ち悪いんだよ、どうしても。これまで付き合ってきた子ともそう。カフェで言い合った子とも、さっき別れてきた」
「な……」
「だけど、永遠には今すぐキスしたいって思ってる。この意味わかる?」
「は……?」
西陽が少しだけ落ちて、眩しかった視界が、薄らと鮮明になる。
「永遠が好きだよ。たぶん、ずっと前から」
涙でぼやけた世界は、カプチーノの泡みたいに、静かにゆっくりと、俺の心の隙間を埋めていくようだった。
「泣かしてごめんな。露骨に避けられたからちょっと意地悪した」
そう言って伸ばされた浬の指が、濡れた俺の頬を撫でる。
「俺……男なのに……平気なの?」
「同性愛なんて動物界じゃ当然のようにある。俺が知ってるだけでも1500種は同性愛的行動が観測されてる。異性愛にこだわってる奴の方が普通じゃないと思うけど?」
首を傾げて、穏やかに浬が笑う。優しく、包み込むように笑う。
まるで同性を好きになることが、何てことないように。俺の劣等感も罪悪感も、根こそぎ引っこ抜くように。
浬の前向きで、いつも自信たっぷりに笑う笑顔が好きだった。
どんなに難問にぶつかっても、持ち前の負けん気で必ず乗り越える強さに憧れてた。
みんなが浬の周りに集まって、いつもそこには暖かな時間が流れて。
それを独り占めしたいなんて、そう願う自分が汚らわしくて。だから決してこの想いは口に出来ないって思ってた。
手を伸ばし、引き寄せた浬の頬に、躊躇いがちに唇をつける。
「ずっと……浬が好きだった」
消えそうな声で囁いた言葉は、嬉しそうに笑う浬の唇に吸い取られた。
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