♯2 エタニティ ブルーム

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軽く触れただけの唇が、緊張で小さく震える。 「……ん」 一度離れて、またじれったく押し付けられる唇の弾力は、まだこの現実が信じられない俺にとって、水中で触れたように鈍く、それでいて心地良い。 下唇を食むようにして、ゆっくり唇が離される。浬が何かを確かめるように頷いた。 「ん……な、なに?」 「いや、やっぱり全然違うと思って」 言いながら、ペロリと自分の上唇を舐める浬の姿にぞくりとする。まるで食事前の味見みたい…… 「な、何が?」 「好きな奴とのキスって、やっぱり美味しいんだなと実感してるというか……とりあえず、俺は我慢の限界です」 「う、わっ!」 体を突然持ち上げられて、そのまま乱暴に靴を脱がされる。 「ちょ、浬っ!」 「ベッド行こ」 「ほ……本気で?」 「まさかお預け?」 カラカラ笑いながら、俺を軽々担いで部屋の扉を開ける。そこには観葉植物が森のように部屋を埋め尽くしていて、壁には一枚のフォトパネルがかけられていた。 「これ……」 ゆっくりと体が降ろされ、目の前にあったベッドに腰をかける。まさにこの場所から、写真がちょうど良い高さで鑑賞できた。 「去年、東海地方に行ったとき、見つけたんだ。この花見てるとさ、永遠のこと思い出す。繊細で、健気で、消えちゃいそうな透明感があって」 『── 永遠に。──』 パネル下に刻印されたタイトルに息を飲む。 「ずっと渡したかった。俺が中学の時に気付けなかった、永遠への気持ち。このタイトルも永遠に会いたいって意味で付けた。新聞に載るから、もしかしたら永遠が気付いて連絡くれるかもしれないって……姑息な考えだよな」 困ったように笑う、浬が愛おしくて。 溢れ出そうな感情を誤魔化すように声を絞り出す。 「何て……名前の花?」 「サンカヨウ」 「変な名前」 「永遠もな。可愛いくて、愛おしいものは、大体変な名前なんだよ」 「浬だってそうだろ?」 舞い上がった二人分の笑い声は、部屋の植物に吸収されて、触れた唇の水分は浬に奪われて。 きっと、また明日も、光を浴びる。
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