♯1 ビター リグレット

3/11
198人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
この枠取られた世界がこんなに生き辛いなんて感じたのは、いつからだっただろう。 きっと、生まれた時から俺はこっち側(・・・・)だったのかもしれない。 「んなこと言うなって。俺は何度住野が別れたって、何度でも住野を紹介するからな」 「それじゃあ、まるで俺が別れるの前提って感じだな」 「だとしても。住野の良さがわからん女は恋人として失格だ」 「だから、なんでそうなるんだよ」 苦笑する俺を横目に、道上は鼻を鳴らして自信満々に笑った。 「一年の時さぁ、彼女にフラれたばっかりなのに俺とひろみちゃんを引き合わせて、付き合えるまで色々世話してくれただろ? 自分が辛い時に他人の恋を応援できる奴は、この世で最も穢れのない崇高な人間だと俺は思うんだよ」 「はは、なにそれ」 “穢れのない”────そんなわけがない。   俺は一体、何人を騙して、傷つけてきたのだろうか。 水面ぎりぎりのところで、窒息しない程度に。だけど姿は見られないように生きていれば、自分の中の異常(・・)が露呈することは無いと信じていた。 それでも身近な人間だけは、例えばそれが友人であれば尚更。 いくら隠し通せたとしても、抑えていた気持ちが生々しく湧き上がって、その度自分の気持ち悪さに泣きたくなった。 友人を、しかも男を。 俺は目で追って、意識している事実。 周りと同じように女の子を好きにはなれず、抱けない事実。 それは決して誰にも知られてはいけない俺自身のバグであり、だからこうして女の子と付き合っていれば、いつかそのバクは修復されると信じてやまなかった。 「じゃ、俺次あるから行くわ」 「ん、いってらっしゃい」 だけど、結局その時が来れば俺は彼女を抱けないわけで。 適当な理由をつけてその場を凌げても、最終的には不信感だけを植え付けてフラれる。 そんなことを繰り返す自分も嫌で仕方無かったし、どうして俺はみんなと同じじゃないんだろうと、無意味な自問自答を続けるのも疲れた。 だからもう、この先ずっと、一人でひっそりと生きられたらそれでいい。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!