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カフェを出て、経済学部の履修が行われる2号館に移動しようとして、思わず足を止める。
「あ、れ……カードが」
各棟に入るために必須のICカード学生証。先程まで確かに持っていたはずなのに。
ポケットを探っても見当たらず、背負っていたリュックを慌てておろす。再発行には時間がかかるし、なによりチャージしておいた電子マネーを使われたらたまったもんじゃない。
「まさか、さっきの本棚で?」
ぞっとして、リュックの中身を引っ張り出そうとしたとき、肩がトンと軽く叩かれた。
「落としてますよ、学生証」
「あ、すみま……せん」
よりにもよって。
「やっぱり永遠だ。さっきの本棚のところにいたの、永遠だったんだ。久しぶり」
何で、こいつが……
心臓が止まりそうなほど息を止めていることに気付く。慌てて酸素を肺に吸い込み、ようやく吐き出した声は無様に震えた。
「なんで……この大学に……」
「別に大した理由はないけど、久々の再会なのに随分な言いようだなぁ」
苦笑しながら俺のICカードを差し出してくるその手は、昔見た時よりも大きくて、節がごつごつと骨ばっていて。
あの頃よりも高い位置にある目線の先の瞳は、大人びた色に変わっていた。
それでも、見紛うことなど有り得ない。
彼は俺が一番会いたくなかった人物、そのひとだった。
「いや、そう言う意味で言ったんじゃなくて、その……地元の方がよっぽど良い大学あるのにって思って……」
市ヶ谷 浬。
中学の時の俺の親友。
そして、初めて自分が男を好きなのだと自覚した相手。
だから、わざわざ高校も違うところを受験したし、中学を卒業してから連絡すら取っていない。ようやく、この気持ちも色褪せ始めたところなのに。なんで今更。
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