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「今日もダリぃ〜なぁ〜! あ、住野くんおはよー」
講義開始時刻までまだ30分以上あるため、2号館のフリースペースに向かうと、同じ選択コースの倉橋がソファで寝転んでいた。
「もう昼過ぎだけど。なんで眠そうなんだよ」
笑いながら自販機前でリュックをおろす。
硬貨を投入し、いつものミネラルウォーターを押す。ゴトリと落ちた重たい音に手を伸ばすと、冷えたペットボトルに触れた手の平から熱が抜けていく。
「昨日までバイト漬けでさあ」
「バイトって飲食店だっけ?」
「いや、稼ぐために掛け持ちしてて、実は二週間住み込みでリゾートバイトに行ってたんだよ」
「どこ?」
「軽〜い沢」
「はは、軽井沢ね。大変だった?」
ペットボトルのキャップを開けながら、倉橋の隣のソファに腰をおろす。
カラカラに渇いた喉に流し込んだ水分は、爛れたようにひりつく胸の奥を潤すことなんて無かった。
「いや、それがさ、めちゃくちゃ快適で楽しくてさ。何より自然が最高なんだよ。マイナスイオンで癒されるってやつ? あれ知っちゃうとさ、この人間関係でドロドロとしたリアルが辛いのさ」
「ドロドロって、倉橋人間関係で悩みあんの?」
「ぜーんぜん!」
「なんだよそれ!」
ケラケラ笑う倉橋はいつも明るくて。
もし倉橋が俺と同じ状況ならどうするだろう、と考えてみても結局。
俺の中の問題は、俺にしか解けない。
「住野くん。なんか元気なくない?」
「ん、ちょっとな……不眠になりそうな難問を抱えてて」
「隣の住人のイビキがすごいとか?」
「はは、ほんとそれだと最高に腹立つな」
「俺は壁を蹴るね」
「それはやめとこ」
「なんでだよ〜」
「でもさ、倉橋の考え方、俺好きだよ」
「え、俺も住野くんが好きです!」
「はい?」
寝転んでいた倉橋がむくりと起き上がって、懐こい顔を向けてにんまりと微笑む。
こういう時の倉橋は大抵、裏がある。
例えば気になる女の子がいるから協力してくれとか、そんな内容が8割がた。
「なに?」
「実はさ……住野くんに折り入って相談があるんだけど。この前の学部対抗イベントの時に知り合った農学部の女の子がめちゃくちゃタイプでさぁ。んで住野くん、農学部の市ヶ谷くんと知り合いだよね?」
「え?」
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