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バックヤードに繋がる店内の窓から、息を切らせた初老の女性が声を掛けてきた。
んもう!今、藍斗くんが降臨してるっていうのに!
「申し訳ございません、在庫切らせちゃってるんですよ」
嘘だけど。
惣菜売り場の冷凍室には、メンチカツの在庫が山ほどある。
初老の女性は「困ったわ……。急遽必要なんだけど」と言いながら、その場から遠ざかっていった。
メンチカツが急遽必要になる状況ってどんなだよ!
昼間の忙しい時間帯に無理な注文付けてんじゃねーよ、ボケ!
私はすぐに視線をスマホに戻した。
藍斗くんのファンはほとんどが中高年の為、チャットの流れは遅い。(みんな打つのが遅いから)
【タニさん、投げ銭ありがとう!】
やった!藍斗君が私にメンションしてくれた!
生配信では、応援の気持ちを表す『投げ銭』というシステムがある。
ネット上で送る事のできる、チップのようなものだ。
そして投げ銭をすると、返事を貰える確率は格段に上がる。
『タニ』とは、名字から取った私のハンドルネーム。
SNSだから本名を載せるのは危険だって、中学生の娘も言ってたしね。
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