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「サーシャ様、わたしとアリスはもう二十歳になりました」
「ええ、それが何なのですか、マリア」
「わたし達は外の世界を見てみたいのです。どうか島から出る許可を下さい」
「あなた達ニ人とも、分かっているのですか、島を出る事の意味が……。何度も言った通りにこの島を一歩出たら、あっという間に穢れてしまいますよ」
「サーシャ様、わたし達二人、覚悟は出来ています」
「全く聞き分けのない事を。 これだけ言っても分からないのなら……ああ、仕方がありません。もうよろしいでしょう。もう引き止めるのはやめましょう。どうぞ行っておしまいなさい。オギオに明後日、船を出すように伝えましょう。それで奄美の島に渡れば良い……。そこに行き着く時にはもうすっかり穢れているでしょうけれど」
若い娘はサーシャの戒めの言葉も意に介さずに、雲雀のような愛らしい声を上げた。
「サーシャ様、ありがとうございます!」
マリアとアリスの二人はこれで晴れて島を出ることを許された。サーシャは話は済んだとばかりに徐に立ち上がった。その時サーシャの足元から二人に向かってザッとひと塊の風が舞い上り、彼女らの長い赤紫色の髪を巻き上げた。アブルの花粉の粒子を含んだ風は、もう一度島に留まらせようと、甘い匂いを彼女らの鼻先に漂わせた。
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