7人が本棚に入れています
本棚に追加
風見
「ごめんな、一緒に病院に行けなくて」
女性雑誌「ニーナ」の記者をしている風見亨は、朝食の後片付けをしている妻に声をかけた。
「もう大丈夫だって心配しなくても。あなたはしっかりお仕事をしてちょうだい、私の分まで」
妻の舞子はガンを患うまでは風見と同じ「ニーナ」の第一線の記者だった。長引く治療のせいで、記者だった頃の颯爽とした雰囲気はもうどこにもない。
「ああ、舞子の分まで頑張るさ」
努めて明るく振る舞う夫に舞子は言った。
「そういえば今日、野村マリアさんの取材じゃなかった?」
「そうだよ」
「ヴィーガン料理の事しっかり聞いて来てよ」
「ああ、いっそ俺達もヴィーガンになろうか、体に良さそうだ」
「でもあなたはまだ、がっつり肉が食べたいでしょ」
「確かになぁ、焼肉が食べられなくなるのはちょっと辛いか。ダメだな。ははは、じゃあ行ってくるよ」
「いってらっしゃい」
夫が玄関を出ると舞子は一気に気が抜けてソファに倒れ込んだ。ほんの簡単な朝食を作っただけの事で疲れてしまう。舞子は脆弱な体が悲しかった。
最初のコメントを投稿しよう!