風見

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風見

「ごめんな、一緒に病院に行けなくて」  女性雑誌「ニーナ」の記者をしている風見(とおる)は、朝食の後片付けをしている妻に声をかけた。 「もう大丈夫だって心配しなくても。あなたはしっかりお仕事をしてちょうだい、私の分まで」  妻の舞子はガンを患うまでは風見と同じ「ニーナ」の第一線の記者だった。長引く治療のせいで、記者だった頃の颯爽とした雰囲気はもうどこにもない。 「ああ、舞子の分まで頑張るさ」  努めて明るく振る舞う夫に舞子は言った。 「そういえば今日、野村マリアさんの取材じゃなかった?」 「そうだよ」 「ヴィーガン料理の事しっかり聞いて来てよ」 「ああ、いっそ俺達もヴィーガンになろうか、体に良さそうだ」 「でもあなたはまだ、がっつり肉が食べたいでしょ」 「確かになぁ、焼肉が食べられなくなるのはちょっと辛いか。ダメだな。ははは、じゃあ行ってくるよ」 「いってらっしゃい」  夫が玄関を出ると舞子は一気に気が抜けてソファに倒れ込んだ。ほんの簡単な朝食を作っただけの事で疲れてしまう。舞子は脆弱な体が悲しかった。
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