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マリア
ホテルのロビーに入ると一人掛けのソファに、ひと際目立つ野村マリアが書類に目を落としているのが見えた。赤い髪はアップに束ねられている。シンプルなベージュのワンピースから真っ直ぐな足が伸びて、赤っぽいハイヒールが更に足を綺麗に見せていた。
「野村さんですよね。お待たせして申し訳ありません。インタビューを務めさせて頂きます、風見です」
風見は待たせた事を侘びて、名刺を取り出した。
「いえいえ私が早過ぎたのです。いつまで経ってもこういう事に慣れなくて」
と、玉を転がすような声を出して立ち上がり、マリアは風見から名刺を受け取った。
「じゃあ、早速部屋の方に参りましょう。すぐにカメラマンも来ると思います」
風見は愛想よく話しながら、マリアの顔を見て改めて驚いた。ブログや他の媒体で見た事があるが、実際の彼女は画像よりもっと若く見えた。もう三十五歳になるはずだが、とても三十代には見えない。 せいぜい二十五六というところか。
かと言って、風見が女性の年齢が分かるかと言えば怪しいものだ。最近の女性はみんな若いのかもしれないな……そう思った時、彼女と大して歳の差がない妻の顔が頭に浮かんだ。妻には悪いが病を引いてもマリアは若過ぎる。
今日はどうしてもマリアに聞かなければならない事がある。妻を助けるために。
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