契約の終了と甘い夜

4/11
前へ
/228ページ
次へ
 そっと両腕を広げて彼の背中に回してみせる。簡単に「いいわよ」なんて言える訳なくて……これが今の私に出来る精一杯の返事なのよ。  それはちゃんと聖壱(せいいち)さんにも伝わったみたいで、彼は私の身体を少し強めに抱きしめてくれた。 「大事にする、香津美(かつみ)は初めてだし出来る限り優しく抱くから……」 「誰もそんな事……きゃっ!」  こんな時に余計な事は言わなくていいのに、どうしてそういう事まで言っちゃうのよ?  恥ずかしくて怒って反抗しようとしたのに、聖壱さんにそのままの体勢でベッドに押し倒されてしまって…… 「じゃあ香津美は手加減しなくてもいいのか?泣いても知らないぞ?」  ちょっと待ってよ、泣いても知らないぞって……?  抱き合うことは私が泣くような行為なのかしら、いままでそんな風には聞いた事が無かったのだけれど。 「それじゃあ、聖壱さんは私を泣かせたいの……?」 「……ノーコメント。今の香津美にはそこまでは教えられない。今答えて香津美に嫌われたくはないから。」  どうして?聖壱さんの言い方じゃ、いつか私を泣かせたいのだとしか聞こえない。  さっきは出来るだけ優しくすると言ったくせに……聖壱さんって少し意地悪だわ。でも…… 「そうね。初めてだから、全部聖壱さんの言う通りにするわ。」  そうやって強気に微笑んで見せる。ちょっと意地悪されたくらいじゃ、オロオロするなんてみっともない所は見せないんだから。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4223人が本棚に入れています
本棚に追加