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『もしもし……』
電話の向こうから聞こえてくる月菜さんの声がかすれてる。その事が少し気になりはしたものの、先に彼女に柚瑠木さんがここに来ている事を伝えておこうと思ったの。
「もしもし月菜さん?貴女がきっと心配していると思って。柚瑠木さんは今、聖壱さんと一緒に居るから大丈夫よ。遅くならないように追い返すから、心配しないで頂戴ね。」
柚瑠木さんのあの様子では、月菜さんに行き先を言っているとは思えなかったから。きっと月菜さんは心配して彼の事を待っているはず。
だから私は、少しでも月菜さんに安心してもらおうと思ったのだけど……
「香津美さん、私……」
月菜さんは何かを話そうとしたようだけれど、それ以上言葉にすることが出来なくなったのか……彼女の声は次第に小さな嗚咽へと変わっていく。
月菜さんはとても我慢強い女性で、少しの事では泣いたりしないはず。それなのに……
「月菜さん?ねえ、貴女はもしかしてずっと泣いて……?」
二人の間に何があったのかは分からないけれど、月菜さんは柚瑠木さんが部屋を出てからずっと涙を流していたのかもしれない。電話に出た時にも声がかすれていて変だったし。
「……プッ、プーップーッ……」
私はいてもたってもいられずに、月菜さんとの通話を切って部屋着のまま玄関を飛び出した。
「おいっ、待て!香津美!?」
後ろから聖壱さんが何か怒鳴っていたような気もするけれど、それどころじゃないわ!
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