契約と新妻の自覚

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 そう言ってゆっくりと差し出された右手。 「二階堂……さん?」  私は慌ててソファーを降り自分の手を二階堂さんに差し出した。一瞬だけ握られすぐに離れていった冷たい手のひら。  ……二階堂さんって見た目も冷たそうな感じだけれど、体温も冷たいのね。 「狭山 香津美です。」 「僕の事は柚瑠木(ゆるぎ)でいいですよ、貴女は聖壱の奥さんですからね。僕も貴女の事は香津美さんと呼ばせていただきますから。」  聖壱の奥さん……そんな呼び方をされると何だかムズムズするわね。まだまだ聖壱さんの妻としての自覚が足りないのかしら? 「柚瑠木さん、これからよろしくお願いします。」 「ええ、こちらこそ。」  二階堂さんは私との会話が終わると、秘書を呼び「お祝いです。」と私に大きな花束をくれた。冷たそうだけれど、悪い人ではないみたい。 「ところでどうなんですか?二人の新婚生活とやらは。」 「思ってたのよりもずっといい、きっと香津美が妻だったからだな。柚瑠木ももうすぐ始まるんだろう、月菜(つきな)さんとの結婚生活が。」  私が妻だったから……こんな恥ずかしい事を聖壱さんは誰かれ構わず話してしまうのね。恥ずかしくて顔が熱いわ。 「そうですね。来週からこちらのレジデンスで月菜さんと二人の暮らしを始めます。だから聞きに来たんです、僕達より先に聖壱に色んな事を。」  ……それってどういう事?
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