罪人よ、知るなかれ

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 連日降り続いた雨のせいで、現在俺がいる草むらのあたりもすっかり地面がぬかるみ、あちこち水たまりだらけになっている。みずたまりの中には、褐色肌に銀髪銀目の不機嫌そうな大男の顔が映っていた。ファラビア・テラの住人は、褐色肌に尖った耳が特徴とされている。だが、銀髪と銀目が揃った人間はそう多いものではない。珍しいし、実に男らしい色だと女性達には大人気だった。この惑星の住人は、男女とわずとにかく“強く優秀である”ことに重きを置く者が多い。男性ならば、逞しく男らしい、もまた充分強さの象徴として魅力的とされるのだった。大柄な体格も銀髪銀目も、女性達の目には非常に男らしく勇ましいものとして映るらしい。  おかげでブロンド美人の嫁をゲットすることができたわけだが――しかしこんな何日も戦地に張り付くことになっては、毎日シャワーを浴びることもままならない。こんな苛立った顔をしていては男前も台無しではないか。早くこの戦いを終わらせて、妻の元に帰りたい。彼女が作るチェリーパイが今は恋しくてならなかった。たっぷりのワインと一緒に、贅沢にまるごと頂きたいものである。  ああ、可愛い妻のジェイミー、地元で元気にしているだろうか。もう一ヶ月も会えていない。友達がたくさんいて、貴族の身分だりながら庶民の友人も多く、人望に厚かった優秀な元軍人の妻。彼女の手料理と、甘いベリーにも似た香りおする髪の匂いを思い出すだけで愛しさがこみ上げる。来週には帰って抱きしめてやれるはずだったというのに。 「オルコック大尉!ブライアン=ダリー軍曹、ただいま戻りました!」  声に顔を上げれば、パタパタと木々の合間を抜けるように戻ってきた人影があった。斥候に出ていた部下のブライアンである。敵が籠城している海岸沿いの町近くまで様子を見に行っていたのだった。優秀な兵士だが、危険な仕事であったことに変わりはない。無事に帰ってこられて本当に良かったと思う。  俺の周囲に共に待機していた部下達にも、一様に安堵した表情を浮かべる。 「おう、お疲れ様ブライン。泥まみれで男前上がってるじゃねぇか。まさか撃たれたりしてないだろうな?」 「問題ありません、大尉!俺は大尉よりずっと小回りがきくので!」 「ははは、言ってくれるぜ」  冗談を言うのは挨拶のようなもの。特にブライアンとは、俺がまだ一等兵であった頃からの顔見知りである。一時期頻発していたテロリズムに対して奮闘し、大きな組織の頭を次々討ち取ったことから俺が一気に階級を駆け上がってしまったため、今は随分と地位に差がついてしまったものだが。昔ながらの友人としても部下としても、俺が一目置く人物であるのは確かなことなのだった。 「さて、報告してくれブライアン。やっこさん、まだ門を閉ざしたままで動きはないのか?」  今回占拠された町が、海沿いであるのが最大の問題なのだった。
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