2人が本棚に入れています
本棚に追加
これにはさすがの相手もひとたまりもなかったらしい。両足を吹き飛ばされ、全身に火傷を負ったその兵士はびくびくと全身を痙攣させた後、息絶えたようだ。これでようやく、安全に接近することも可能となる。できればクオリーネ星人の方であってくれよ、と思いつつ俺は兵士のマスクを外すことにした。
防護マスクは熱で溶け、一部が相手の顔の皮膚に貼り居ついている。それを強引にびりびりと剥がしつつ、その顔を確認しようとした俺の目に最初に飛び込んできたのは――焼け焦げた金髪だった。
「……え?」
何故。そんなはずはない。思い浮かんだのは、二つの単語。それが俺の頭の中でぐるぐると回り、俺の周囲からあらゆる音を消失させる。
「……ジェイミー?」
有り得ないだろう。
何故、愛しい妻のジェイミーが此処にいるのか。兵士の服を来て、テロリストに混じって。
そして、今。
何故自分の目の前で、焼け焦げて両足が吹き飛んだ無残な姿で、死んで。
『大尉!オルコック大尉!』
無線の向こうから、悲痛な声が繰り返し響いてきていることにようやく気づいた。ブライアンだ。
『どういうことですか!い、今敵を倒したんですが……俺の、元同僚です。国王軍の、同僚のランベルなんです!何でこいつが……というか、さっきから、入る報告全部……全部、元軍の知り合いだって声ばっかり。クオリーネ星人なんて、何処にもいないんです!どういうことなんです、大尉、大尉!!』
ああ、と。俺は軍の隠し事の正体を知って、膝をつくことになるのだ。
化物の異星人退治。そう言っておけば、自分達が騙されて罪悪感もなく敵を殲滅するとそう思っていたのだろう。実際、その通りだった。相手が化物か裏切り者のテロリストだと思っていたから、自分達は容赦なく相手を殺したというのに。
なんの冗談だろう。実際は、元軍に所属していた者達の、王国への反乱であっただなんて。自分達は、何も知らず顔見知りと殺し合いをさせられていただなんて。
――なんで。何で国王陛下に逆らうようなことをしたんだ。なんでだ、なんでだよジェイミー……!お前は、相手が俺だと気づいていたんじゃないのか……!?
焼け焦げて、美貌の半分が真っ赤に溶けた愛しい妻はもう、何も語ってはくれない。
俺達は最初から、人を人とも思わぬ地獄にいたのだ。
今更それを思い知ったところで、取り返しがつくことなど何一つとて無いのだけれど。
最初のコメントを投稿しよう!