迷い込む

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 黒猫は4本の足を素早く動かして、あたりを行ったり来たり、少し止まっては頭と耳を伏せながら、とにかく自分がなぜここにきてしまったのか困惑している様子である。  王はため息をついて、重い腰を上げると、傍にある剣をとった。そのまま振り払うようにして鞘を落とし、怯える猫に近づいた。猫の瞳孔が開いたときには、王の剣は振り上げられていた。  「ま、まってぇ!」  どこからか声が聞こえた。王は周りを見渡すも、勿論誰もいない。なにか面倒なことになる、そう予感しながらも猫を見ると、どこにもいない。代わりに薄着の若い男が、身を縮めてうずくまっていた。  「お願い、ころさないでぇ…。」  頭に猫の耳を生やした、黒髪の男は涙目になりながら、王の訝し気な目を見つめた。一際大きなため息をつくと、王は剣を放った。  話を聞くとどうやら、本当に迷い込んでしまっただけのようだった。ただ問題なのは彼の姿について、どうして人間に、もしくは猫になれるのだという点にある。
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