迷い込む

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迷い込む

 あるところに、大きな王国があった。とても豊かで、特に武芸に優れたものが多く集う、強い国であった。  そんな国を治める王は、つい最近就任したばかりの、若く凛々しい王である。名をディミトリと言った。先王が亡くなったため、流れるように国の運命を委ねられてしまった、王というよりは王子が似合う、そんな若者だった。  政治も交易もうまくやったが、ただひとつ、態度がすこぶる悪い。見目は麗しい、それなのに玉座にもたれかかり腕を組んでいつもどうでも良さそうな顔をしている。青い瞳も、金色の髪も、全てが彼の態度と矛盾していた。しかもそれを民衆の前では見せず、とにかく良い王を演じていたので、特に反発が起こることもなかった。    ある日、玉座の間で一人、大臣の話を聞いていると、どこからか黒い猫が入ってきて、きょろきょろと警戒しながら目の前を通り過ぎた。  「おい、なんだあれは。」  うろん気に王が尋ねると、大臣も分からぬようで、慌てて警備の者を呼びに行った。
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