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むかしむかし、あるところに
その日は晴れ渡った気持ちのいい日だった。
澄んだ青空をスズメが横切って行く。
今日はいい天気だ、と空を見上げていた婆さんは、視線を手元の洗濯物へと戻した。
川の冷たい水は少し前なら手を入れるのをためらわせたが、今日はとても暖かいのでその冷たさが心地よく感じられる。
山へ芝刈りに行った爺さんは、今頃汗だくになっていることだろう。
晩ご飯は冷汁でも作ってやろうか、と衣服をゴシゴシもみながら思案していると、川の上流から何かが流れてくるのに気が付いた。
山の木漏れ日が落ちる岩と岩に挟まれるように川は流れている。深さも幅もないこの川は、村の子供らの遊び場になっていた。
だが、どういうわけか、今日はいい天気だというのにひとっ子一人いない。
何かは岩の影からそろりと流れてきた。
それは丸い形をしている。
色は薄紅色で、よくよく観察して桃だと分かった。
何だ、と思うと同時に違和感を覚える。
すぐにはその理由に思い至らなかったが、ゆっくりゆっくりと桃が近付くにつれ、違和感の正体が浮き彫りになった。
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