四、

3/3
前へ
/10ページ
次へ
 暮六つの鐘が、今日も鳴る。  ゴーン ゴーン ゴーン…  暖かな光と静かな夜の合間で、茜色に輝く夕陽が人々に労いを向け、今日も沈み行く。  鴇は、其れ以降見付かる事は無かった。  無論、仁の行方を知る者も居ない。  人々は、二人は駆け落ちしたのだろうと噂した。今頃何処か遠くにて幸せに暮らしているのであろうと。  只、二人だけ。  源三郎は、其の噂を持ち出されると少しだけ気まずそうな顔をし、し乃雪はさも楽しそうに美しい笑みを見せ、何も言わなかった。  そんな二人を、夕の茜色は素知らぬ顔でほんのりと染め上げていき、其れだけであった。 了
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加