弐、

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 ― キャアアアア――――…!!!  悲鳴だ。  真っ先に悲鳴が仁の耳をつんざいた。  何も見えぬが、この身が冷たい何かの底へ落ち逝く感覚はある。  ― 恨めしい―――女手一つで此処まで育てたのに―――  悲鳴がやがて言葉へと変わり、  ― 私の金を奪うなんて……遊女に貢ぐなんて―――  ……違う、あれは俺の金だ!  ― 私を捨てるんだねぇ……飯も買わせてくれないなんて……私が死んでも、あの女の所へ向かうんだねぇ―――  ……勝手に死んだのは母さん、あんただろう!!  ― 恨めしい……お前の親父と同じ事を……恨めしいよぉ―――!  やがて、足元……否、其の遥か下に、紅い光が見得た。夕陽の如き紅……否。其れは、炎だ。  どしん、と、急に地面が現れ、仁は尻餅を突いて転がった。不思議と然程痛くない……あの黒い手達も何時の間にか消え、辺りを見回せば。  ゆらり、ゆらり、ざわり……  先程の野原?  否。揺れている草と思えたものは炎だ。  星の如きものが瞬く。青白い小さな光は、人魂。  肌を焼く様な熱風が吹き荒れ、仁の着物の袖をちりちりと揺らし焦がす。……炎の隙間に焼かれているものが時折見える。  人の、腕。  ゾッ……と、血の気が引く。  遠くに人影がある。嗚呼、誰か……思わず駆け出した。  不思議と、周囲の炎は触れても即座に火傷する事は無い。其れを知る余裕も無く、今にも心が焼き切れそうな程の恐怖が身を支配して行く。兎に角、早く此処から出ねば。
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