6人が本棚に入れています
本棚に追加
― キャアアアア――――…!!!
悲鳴だ。
真っ先に悲鳴が仁の耳をつんざいた。
何も見えぬが、この身が冷たい何かの底へ落ち逝く感覚はある。
― 恨めしい―――女手一つで此処まで育てたのに―――
悲鳴がやがて言葉へと変わり、
― 私の金を奪うなんて……遊女に貢ぐなんて―――
……違う、あれは俺の金だ!
― 私を捨てるんだねぇ……飯も買わせてくれないなんて……私が死んでも、あの女の所へ向かうんだねぇ―――
……勝手に死んだのは母さん、あんただろう!!
― 恨めしい……お前の親父と同じ事を……恨めしいよぉ―――!
やがて、足元……否、其の遥か下に、紅い光が見得た。夕陽の如き紅……否。其れは、炎だ。
どしん、と、急に地面が現れ、仁は尻餅を突いて転がった。不思議と然程痛くない……あの黒い手達も何時の間にか消え、辺りを見回せば。
ゆらり、ゆらり、ざわり……
先程の野原?
否。揺れている草と思えたものは炎だ。
星の如きものが瞬く。青白い小さな光は、人魂。
肌を焼く様な熱風が吹き荒れ、仁の着物の袖をちりちりと揺らし焦がす。……炎の隙間に焼かれているものが時折見える。
人の、腕。
ゾッ……と、血の気が引く。
遠くに人影がある。嗚呼、誰か……思わず駆け出した。
不思議と、周囲の炎は触れても即座に火傷する事は無い。其れを知る余裕も無く、今にも心が焼き切れそうな程の恐怖が身を支配して行く。兎に角、早く此処から出ねば。
最初のコメントを投稿しよう!