参、

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参、

 三日後。  仁は、源三郎とあの白き太夫に礼をしに黒町屋へ向かった。  あれ以降、影は暮六つの鐘が鳴ろうとも襲い来る事は無くなった。総てが終わったと自覚をしつつ、しかし如何しても何かもやもやとしたものが心の隅に残っていたのだ。  客引きは彼の顔を覚えていた。一言声を掛ければ、嗚呼どうぞどうぞ、其処の階段上って直ぐの部屋ですと簡潔に案内してくれた。 「出家する事にしました」  団子の入った笹包みを差し出しながら言えば、女は「ほぉ?」と目を丸くする。 「どの様な風の吹き回しじゃ?」 「あれから、影は俺を追わなくなりました。総て終わったのでしょうが…… 母をあの様な姿にしたは、何れにせよ俺が原因であったと思うのです。なので……」  女と源三郎は、お互い顔を見合い。  ふ…と女が煙管を吸う傍ら、源三郎が頷く。 「左様か、」 「色々と、有難う御座いました」  頭を下げ、仁は立ち上がる。早速、寺へ話を聞きに行く為だ。   「……さて、如何なる事やら」  仁が部屋を後にした直後、女はふぅと溜め息交じりに呟く。対し、茶を啜っていた源三郎が「ん?」と振り向いた。 「お前が渡したあの形代を使ったじゃぁ無ぇか、」 「あれは気休めじゃ。般若、まして他人の母を殺める程の力を俺が渡すと思うかえ?あの男は信用ならぬ」 「でもよ、し乃雪」 「あの男、般若に耳が無かったと言うておったであろう?」  団子の包みを開きながら、女……し乃雪は、零す様に言葉を紡ぐ。 「耳の無い般若は般若にあらず。”真蛇(しんじゃ)”と言うてな、聞く耳持たぬ程怒り狂った女が成るのよ。 其れ程の事を、あの仁なる男は仕出かしたと言う事じゃ」 「じゃあ、あれから影が追って来なくなったと言うのは」 「さてね。 俺は知らぬよ、嘘吐き男の事などな」  団子をひと齧り。ほんのりと甘い其れにはんなり笑む、し乃雪。 「……成る程、俺はお前さんを怒らせん様にせぬとなぁ」 「何を申す?俺は陰間(おとこ)じゃ、般若にはならぬよ」 「其処じゃあ無くてよ、」  笑いながらそう交わした、其の時だ。  外が何やら騒がしい。ひたり、二人は動きを止めて其の声に耳をそばだてた。  ……聞くに、遊女が一人逃げたとの報。名を(とき)と言うらしく……。 「……あちゃー……」  源三郎が、額に手を当て宙を仰ぐ。  し乃雪はくつくつと笑いながら、もう一口、団子を頬張った。 「何事も無ければ重畳、重畳……ふふ……」
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