四、

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四、

 暮六つの鐘が、今日も鳴る。  ゴーン ゴーン ゴーン…  暖かな光と静かな夜の合間で、茜色に輝く夕陽が人々に労いを向け、今日も沈み行く。  長く伸びた影を背に、仁は道を急いでいた。  さわさわと、すすきが揺れる。心地の良い風が、彼の袖を揺らす。  少しばかり心晴れやかで、しかし身が引き締まる思いもある。  懐にある金を、明日鴇の居る仲見世に渡すつもりだ。ずっしりと重い其れは、今まで肌身離さず貯め続けていた七十両。……自分で稼ぎ続け、鴇以外の者へはびた一文も使わなかった金である。  彼は其れを当たり前の事であると思っていた。自身で稼いだ物は自身で使うべき。同居人は同居人で稼ぎ、食うべきであると。  此度、初めて他人の為に金を使う。其の高揚感が、仁の脚を軽くした。出家するは其の後でも良いであろう、と。  田んぼのあぜ道に、自分を見付けて駆け寄る人影があった。……まさか、この様な所で出会うとは。必死な形相で、其れは大きく手を振り、声を上げた。 「仁様!仁様!!」 「……鴇!? 如何して此処に、」  真っ直ぐ仁の胸へ飛び込んで来た女は、遊女の鴇である。涙で顔を濡らし、脚を泥で汚し、まるで旅の男の様な格好で……恐らくは、遊廓の門番の目を騙す為であろう。 「仁様に会いとうて、抜けて来てしまいました」 「そうか……そうか!其処まで俺を、」 「このまま一緒に逃げとう御座います……一時も離れとう御座いません……!」  抱き締め合う二人の影が、ざわり……揺らめく。 「もう少し待てば、俺が身請けしたものを……何故この様な無茶を?」 「此処暫く、会うて下さらなかった故……寂しゅうて、」  ざわ……ざわり、 「ねぇ、仁様」 「ん?」 「わっち、仁様と一生添い遂げとう御座……」  仁の顔を、潤んだ瞳で見上げる鴇。…… 其の顔が、見る間に青褪め。 「……あ……ひッ……」  見詰めるものが、違う。仁の頭上だ。……そう言えば、周囲が影の様に急に暗く……。  ふと、仁も又頭上を見遣った。  ざんばらに髪を下ろした巨大な女の影が、人が二人も入る程の大口を、がぱぁ……と開けていた。  其の姿に「あッ」と漏らした途端。
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