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とある休日、どこにも出かけず、家でそれぞれ好きなことをして過ごしていた私たち。ソファーに座って本を読んでいる彼に話しかける。
「ね」
「なに」
彼の視線はまだ活字を追っている。
「ひま?」
「暇じゃないよ、本読んでる」
「ハンドクリーム塗ってあげる」
彼はようやく視線を上げた。
「え、やだよ」
「いいから」
私は手を洗って鏡の前のハンドクリームを手に取ると、彼の右横に座った。
まず自分の手にクリームを出して、手のひらに広げながら温める。ウッディな香りがふわっと広がる。
「右手出して」
彼はため息をついた。そして右手の甲を上にして、私の差し出した手の上に置いた。
大きな手。甲は薄く、骨が、手首から指の付け根に向かって放射線状にきれいに広がっている。ところどころ血管も浮き出ている。指は女性のように細長く、爪は縦に大きく長い。彼は見られるのが好きじゃないみたいだけど、私は好きだ。
凝視していると、彼が長い指を折り曲げ、私の手を握った。
「こら。指、伸ばして」
冷静に言うと、彼は少し唇を尖らせ、指を広げて再び本を読み始めた。
彼の手の甲に私の手のひらを滑らせてクリームをなじませる。それから指の付け根から指先に向かって1本ずつ塗っていく。甘皮が少しささくれているなあ、オイルを塗ってあげたいけど、嫌がるし。丁寧に指の先まで塗る。
次に彼の親指の根元を私の二本の指ではさみ、指先まで滑らせながら引っ張る。小指まで繰り返す。
「あー、きく」
彼が呟く。
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