天国の父が遣わした男

1/5
前へ
/5ページ
次へ
「だめだよ」 あの時、私が受け入れてしまっていたら私達の関係はどうなっていただろうか。今でも少しの後悔が私の心の奥深い所で疼いているような気がする。 もう時系列がどうなっていたのかも覚えていないが、あれは週に2~3回「メシ行く?」と彼から連絡があり、2人で食事をすることが多かった時期であった。いくつかの団体の代表やら理事やらを兼任していた彼は、美味しいつまみを出す居酒屋を良く知っていたので、「下戸」の私の為にそういう居酒屋にも連れて行ってくれたものだった。或る日、例の如く少し酔っぱらった彼と私は帰路についていたのだが、途中で持病の不整脈が出た私は立ち止まってしまった。人通りがなかったとは言え、バス通りの歩道で、驚いたことに戻ってきた彼が私を引き寄せてキスしようとしたのだ。私は咄嗟に彼の口を手で押さえて「だめだよ」と制止してしまったのだ。どうしてか、は今もって分からない。自由奔放そうでいてもやっぱりこれは家庭人として許されないことだ、という理性が働いたのかもしれない。彼の大胆な行動に、よりも、大好きなのに彼のキスを受け入れられなかった自分に私自身が一番驚いていた。あぁ、私は縛られた女になっているのだなぁ、と。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加