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「ママ、遊びに行きたい!」
そうだ、とりあえず近所を散策するのもいいかもしれない。
スーパーの荷物の片付けや、家の簡単な掃除がすむと、私はまた幸平と手をつないで外に出掛けた。
十分ほど歩いたところに公園を見つける。ずいぶん人がいる。
そうか、うさぎが置いた『日』はカレンダーで、今日は日曜日なのかもしれない。
幸平はあっという間に同じくらいの子どもたちが遊ぶ中に入っていった。
我が子ながらたくましいなと思う。
「こんにちは」
近くにいたお母さんたちに声をかけられる。
「最近こちらに来られたのですか?」
「あ、はい、あの、よろしくお願いします」
みんな優しくて、何もわからない私にいろいろと教えてくれた。
「幸平くんっていうのね」
「うちも年中よ。同じね」
「私たちは年長なの、ほらあそこで遊んでる」
よく考えてみれば、私にはママ友がいない。保育園にも幸平を送り迎えに行くだけで、こんな風に子育てをしている者同士でゆっくり話す機会なんてなかった。
夫が単身赴任で四人を育ててるとか、仕事との両立で苦しんでるとか、親の介護と子育てが重なったとか……
みんな多少、大袈裟に話してはいるけれど、それぞれ凄まじい。
「うちは母子家庭なの」
カナと呼ばれている女性が話し始めた。
「あ、私もです」
「由希子さんも? うちさあ、前の旦那、養育費払ってくれないの!」
「あ、それも同じ」
「やっぱり?? 腹立つよねえ! でも顔も見たくないから、催促するのも無理なんだよねえ……」
腹を立ててもいいんだ……
カナさんの愚痴を聞きながら、私はそんなちぐはぐなことを考えていた。
「私、元夫が仕事辞めてくれというから辞めたんです。そしたら夫が勝手に仕事辞めてて……幸せにする自信ないから別れてくれって…」
自然と口から愚痴がこぼれる。
「はあ?? 何それ?! 最っ低!」
「そんな男、別れて正解よ!」
「こっちは自分のご飯削って子ども食べさせてんのにさ、向こうは一人で絶対いいもの食ってんのよ。男って勝手よね」
「別れたらもう子どものことなんか頭にないのよ。うちなんて家にいても育児も何一つしてくれないけどね」
即座に愚痴の倍以上、慰めやら同意やらの言葉が返ってくる。
「頑張ってるね、由希子さんも」
頑張ってるね、なんて、誰にも言ってもらったことがなかった。
「あんまり無理しちゃだめよ。今度また愚痴りランチ会するからさ、由希子さんもおいでよ。てゆうか、ゆきちゃんでいい?」
カナさんに言われて頷きながら、私は肩に乗っていた重い荷物がふわりと下ろされたような気がしていた。
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