現実逃避行

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 次の日、玄関のカードは『月』に変わっていた。何となくうさぎを思い出す。  幸平も私も暇をもて余して、また昨日の公園に行くことにする。  公園の様子は昨日とガラリと変わっていた。仕事や学校などに行っているのだろう。親子の姿はどこにもない。  代わりに今日は、グランドゴルフをする高齢者グループの姿があった。 「ぼく、何歳?」  順番を待っていたおばあさんが幸平に話しかける。 「4さい」 幸平が指を立てて答える。 「こうちゃんっていうのかい?」 「ちょっとこっちに来てやってみないか?」  人懐っこい幸平は、すでにグランドゴルフメンバーの中心にいた。 「うまいうまい」 「もっと強く打っても大丈夫だぞ」  幸平が何度目かに打ったボールは、偶然にも旗の立った金属のサークルの中にチンという音を立てておさまった。 「やったぞ、こうちゃん!」 「なかなか筋がいいなあ」  おじいさんたちに誉められて幸平も嬉しそうだ。  私は日陰にあるベンチで休むおばあさんの隣に座った。 「私らねえ、もう孫たちも大きくなった人が多いから。孫が近くにいるとも限らないしねえ。こうちゃんみたいな小さい子が来てくれると明るくなるわ」  おばあさんは笑顔で、動き回る幸平を目で追っている。 「ほらみてごらん、コウゾウさん。いつもはほとんど座ってるのに張り切って……」  コウゾウさんと呼ばれたおじいさんは幸平の横に付きっきりで、あそこを狙えとか持ち方はこうだとかいろいろ教えてくれていた。 「遊んでもらえて助かります。お邪魔になっていないでしょうか」 私が言うと、 「いやいや、健康づくりの遊びなんだから。順番待ってる間は暇だし、気にすることないわよ」 とおばあさんは言った。 「こちらこそ、こうちゃんが来てくれて嬉しいですよ。月、水、金と1日おきにやっているから、また来てくださいな。さて、私も行ってきますよ」  スティックをもって立ち上がったおばあさんは会釈をして、グランドゴルフの輪に戻って行った。  あらあら、幸平、なかなか入らないもんだからイライラしちゃって……  やけっぱちでスティックを振る幸平を、回りのおじいさんおばあさん達が温かく見守ってくれている。  子どもは邪魔者扱いされるものと思っていた社会の中に、こんなにも温かく受け入れてもらえる場所があったなんて……  胸が熱くなるのを感じた。
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