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私は仕事を辞めて、二歳になった幸平と家で過ごしていた。
その日は買い物に行って、ちょうど家に帰ってきた時だ。
馴染みのない番号から着信がある。出ると、宏之の会社からだった。
「宏之さんと連絡が取れないので、こちらに……」
どうにも話がちぐはぐで噛み合わない。
聞くと、宏之は数ヶ月前から出勤していないという。無断欠勤が続き、先月で退職扱いになっていた。
「帰ってきたら話してみます」
会社との事務的なやり取りを済ませて電話を切ると、私は宏之の帰りを待った。
その日も宏之の帰りは遅かった。
「ただいま~。いや~疲れた、今日も残業でさあ…」
私の様子からいろいろと悟った彼は、
「ごめん」
と、一言だけ謝った。
それから宏之は毎日家にいるようになった。今まではパチンコやネットカフェで時間を潰していたようだ。
私が働いていた時からの貯金は、いつの間にか半分以下になっていた。
それでも私は何も言わなかった。
「私に仕事を辞めさせたくせに」
「何でもっと早く言わなかったの」
言いたいことは山ほどあった。
でも言えなかった。
何か辛いことでもあったのだろうか。
私が彼を追い詰めていたのかもしれない。
今はゆっくりさせておいた方が良いのではないか。
そんなことを思ったから……
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